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*以下は2002年3月12日付フィナンシャルタイムズ紙に掲載された記事を同紙の許可を受けて転載したものです。

「君臨する自由貿易の擁護者」


米国通商代表 ロバート・B・ゼーリック

  ジョージ・W・ブッシュ大統領は、先週、米国鉄鋼業界が再建できるよう、世界貿易機関(WTO)のルールに基づき行動した。われわれは、昨年の6月以降、世界の鉄鋼産業が直面する問題、すなわち政府による補助金・市場統制・保護などの長い歴史に由来する過剰生産能力という問題に関して、他国を非難するのではなく、多国間で取り組む必要があることを説明してきた。この精神に沿って、私は、この問題に関するブッシュ政権の立場を説明したい。

 まず、今回の措置の位置付けを明確にすべきである。米国は、毎年、1兆ドルをはるかに超えるモノを世界中から輸入しており、そのうち約1パーセントを半製品を含めた鉄鋼製品が占めている。昨年、米国は4270億ドルの貿易赤字を計上した。こうした状況下においては、特定の国内産業が、多数の企業倒産や失業を引き起こす一因となってきた輸入の急増に対処できるよう、利用可能な国内および国際的な措置を講じるのは、合理性のないことではない。

 貿易相手国の中には、今回の措置は、米国が保護主義的な政策に転換したことを意味するものとの懸念を表明している国もある。そうした考えは誤っている。この1年を見ただけでも、米国は自由貿易を強く推進する措置を取ってきた。カタールの首都ドーハでの世界貿易自由化のための新交渉ラウンドの立ち上げに始まり、中国と台湾のWTO加盟の実現、ヨルダンとベトナムそれぞれとの自由貿易協定の締結、そして、世界最大の開かれた市場となる米州自由貿易圏創設ための交渉推進まで、ブッシュ大統領は、開かれた貿易に対する自らのコミットメントを繰り返し明らかにしてきた。ブッシュ大統領はまた、自由貿易の恩恵を途上国に対しても広げることを決意しており、米国市場に対する特恵的なアクセスを拡大し、アフリカ、中米、アジア太平洋地域諸国との自由貿易協定の可能性を模索している。

 こうした取り組みの1つ1つが、究極的には米国、主要貿易相手国、そして途上国の持続的な繁栄を生む貿易システムの構築につながる。

 今回の輸入制限の決定に関しては、米国が世界有数の鉄鋼製品輸入国であるということからも明らかなように、米国はこれまで長い間、鉄鋼製品の第1のそして最後の市場であった。こうした事実に加え、1990年代後半のアジア経済危機により、同地域での鉄鋼製品に対する需要が低下したこと、そして輸出主導の世界経済の成長を促すドル高が続いてきたことにより、前例を見ないほど大量の鉄鋼製品が米国市場に殺到することになった。

 WTOのルールは、加盟国がまさしく、このような破滅的な状況に対処するため、緊急輸入制限(セーフガード)措置の発動を認めている。現在、米国の鉄鋼生産能力の約3割に相当する企業が破産状態にある。昨年の第4四半期における国内の鋼材価格は過去20年で最低の水準まで下落し、経営の効率性や事業モデルにかかわらず、ほとんどすべての鉄鋼メーカーが赤字を計上した。1997年以降、鉄鋼業界では、4万5000人の雇用が失われた。

 こうした問題に包括的に取り組むため、ブッシュ大統領は昨年6月、世界の鉄鋼業界が非効率な生産設備を閉鎖するよう、多国間協議を提唱した。この協議は、「基幹」産業を育成するとの国策という長い歴史に由来する、広範な市場の歪みに対処することも目的とした。

 ブッシュ大統領は、この問題の外交的な交渉が行われている間、手をこまねいているだけではないことも明確にした。すなわち、独立行政機関である、米国際貿易委員会(ITC)に対し、輸入製品がもたらす米国の鉄鋼業界・労働者への影響を調査するよう要請した。ITCが全会一致で、輸入製品は米国の鉄鋼業界に深刻な被害を与える大きな要因であると判断したことに対応して、ブッシュ政権は、鉄鋼製品ユーザーへの影響を最小限に抑えつつ、鉄鋼業界が適切な救済を受けられるよう、慎重に計画された「セーフガード」措置の発動を決定した。

 今回の措置は時限的なものである。関税は3年間で段階的に廃止されることになっており、この間に鉄鋼メーカーは更なるリストラを進め、過剰設備を削減し、生産性を向上させることが求められる。こうしたプロセスを米国政府は緊密に監視していく。米国は、世界の鉄鋼メーカーが、より健全で自由な国際的な鉄鋼市場を構築できるよう、そうした米国の取り組みに倣うことを希望する。

 今回の救済措置が短期的なものであること以外にも、ブッシュ政権はこの鉄鋼セーフガードが、貿易相手国にもたらす影響を最小限に抑えるための措置を講じている。たとえば、米国に対して最高水準の互恵的な市場アクセスを提供してきた国々、すなわち北米自由貿易協定や他の自由貿易協定を締結している国々は、今回の措置の発動対象からは外されている。また、ロシアとブラジルの主要な鉄鋼製品については、寛大な数量割り当て措置が取られている。オーストラリアや韓国を含む他国に関しても、重要な適用除外措置が取られている。ほとんどの途上国は、これからも引き続き、米国市場への開かれたアクセスを享受できる。こうした措置すべてが、WTOのルールに沿ったものであり、時限的なセーフガードが引き起こしうる混乱を軽減しようとする米国の配慮を反映するものである。

 これまで、欧州連合(EU)や日本、韓国、ブラジル、インドなどの国々が、多岐にわたる製品を対象としたセーフガードを発動してきたことに留意することが重要である。事実、現在、世界中で約20件のセーフガードが実施されている。さらに、われわれは、他国が世界的な鉄鋼問題を米国に転嫁しようと、公式・非公式な取り決めを利用してきたことも承知している。

 われわれは、貿易相手国が今回のセーフガードについて、米国が、これまでこうした問題に対し、一方的な報復措置ではなく、ルールに基づいた多国間での取り組みで対処してきたのと同様に対処することを希望する。

 ブッシュ大統領は、開かれた貿易という大きな課題を、2国間、地域内、そして国際的なアプローチで追求している。大統領は、上院に対し、米国が自由で開かれた貿易にコミットしていることについて一致しているという強力なメッセージを貿易相手国に示すことになる「ファースト・トラック(貿易交渉一括権限)」を速やかに可決するよう要請している。米国経済には回復の兆しがあり、これは、鉄鋼産業を含め、他国の成長回復に再び資することになる。それゆえ、すべての国が、経済発展と機会、そして多国間貿易体制を醸成する貿易の諸問題解決に向けて共に協力していくことが、なおさら重要である。


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