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欺まんの構造

サダム・フセインの情報工作とプロパガンダ 1990−2003年

目次

概要

作り出される悲劇

過去の民間人・施設の利用 
現在の民間人・施設の利用    
ケーススタディー:アミリヤ避難壕

苦難の利用

政権の失敗を制裁措置に転嫁 
ケーススタディー:赤ん坊の葬儀 
劣化ウランの脅威
イラクの化学兵器による医学的影響に関する事実

イスラム教の悪用

聖地巡礼でのゆすり行為 
シーア派イスラム教徒の弾圧 
湾岸戦争:中東における非イスラム教軍隊に関する嘘 
湾岸戦争:イスラム教徒と西側同盟国の衝突に関する嘘

公文書の改ざん

自らの手による破壊行為 
演出された一般市民のインタビュー 
検閲 
記事掲載のためのひそかな工作 
ケーススタディー:アルファハド偽造文書 
湾岸戦争:虚偽の勝利宣言

結論:欺まんは続く

Bibliography(参考文献)

Endnotes(注)

 

概要

「嘘をついても、それが命令されたものなら、嘘をついたことにはならない」
 −イラクの生物兵器担当高官

 1998年12月、国連の兵器査察官リチャード・スパーツェル博士は、イラクの言い逃れや虚偽の陳述にいら立ち、イラクが生物兵器計画の責任者であるとしていたリハブ・タハ博士を詰問した。「あなたが嘘をついているとわれわれが知っていることを、あなたもわかっているはずだ。それなのになぜ嘘をつくのですか」。すると彼女は姿勢を正してこう答えた。「スパーツェル博士、嘘をついても、それが命令されたものなら、嘘をついたことにはならないのです」(注1

 タハ博士のそっけない回答は、徹底的に嘘をつくことによりイラク政府に対する支持を勝ち取ろうとするために巧みに組み立てられ、高度に組織・統制された計画を象徴している。この綿密な計画は、イラク政府が政治、軍事、外交上の目的を遂行するための、最も強力な武器のひとつである。イラクは、その情報工作やプロパガンダ作戦において、入念な策略や明らかな欺まん、秘密工作や虚偽の公式発表、そして周到な準備やチャンスの活用といった手段を利用している。その多くは、決して新しい手法ではないが、イラク政府は、現在、世界の他のいかなる政府よりも積極的かつ効果的にそれらの手法を利用し、より深刻な事態をもたらしている。

 今後数週間、国際社会が国連安全保障理事会決議の履行と、イラクの武装解除を求めるに当たり、各国政府、メディア、そして一般市民は、その恐ろしい欺まんの記録を考慮し、イラクの言葉や行動や映像を検討することが求められる。

 「欺まんの構造」では、イラクがプロパガンダと情報工作のために利用してきた虚構について、大きく次の4分野に分けて述べる。

  • 作り出される悲劇:イラク政府は、悲劇を巧妙に作り上げるため、武力衝突の際に当然攻撃目標となる軍事設備・施設や軍隊の近くに民間人を配置している。イラクは、湾岸戦争の際、イラク人と外国人を人間の盾として公然と利用し、後に国際社会からの圧力に屈して彼らを解放した。イラクはまた、モスクや古代文化財の隣あるいは中に軍事施設を置いた。さらに、自らの施設を故意に破壊し、それを連合軍による爆撃によるものと非難し、また地震などの天災による被害を爆撃によるものと主張してきた。

  • 苦難の利用:サダム・フセインは、国民の苦難を利用するため、飢餓や医療の決定的不足(その多くはフセインが自ら引き起こした)を、国連または米国とその連合国によるものと非難している。この策略は非常に効果的であるため、イラク政府は故意に苦難を作り出したり、あるいはそれを放置し、国民の苦難を積極的に利用している。過去数年にわたり、イラクは、劣化ウランがイラク国民のガンや先天性異常の原因となっているという誤った見解を強硬に推進してきた。劣化ウランは、湾岸戦争中に徹甲弾に使われたもので、比較的無害な物質である。ガンや先天性異常の発生率が上昇しているとすれば、それはイラクによる化学兵器使用が原因である可能性が高いことは、科学的証拠により示されている。

  • イスラム教の利用:専門家の間では、フセインが、宗教とは関係のない、無神論的でさえある政党の出身であり、信心深い人間ではないことが知られている。しかし彼は、イスラム教徒の感情に訴えるため、公式の発言では信仰心を示す表現を使う。またイラクのプロパガンダ機関が、祈とうその他の敬虔な行為を行うフセインの姿を描いた看板を立て、その肖像画を配布する一方で、フセイン政権は巡礼者のメッカ巡礼を妨害している。またイラクは、イスラム教徒の反イスラム主義者に対する反感を煽るため、虚偽の情報を多数流してきた。

  • 公文書の改ざん:イラク政府は、公文書を改ざんするため、虚偽の公式発表、虚偽の記事掲載、自作自演の破壊行為、文書偽造、虚偽のインタビューなどの手段を併用している。

 イラク政府は、いくつかの手段を組み合わせて利用することで、虚偽の情報や画像を配布し、イラクの支持者やニュース解説者らがそうした情報をメディア全体に行き渡らせることを期待している。そのような虚偽の情報の多くはすぐに消えるが、到底信じがたい主張でさえも信じる者がおり、あるいは少なくとも公文書に永久保存される。情報が偽りであることが証明された後も、状況によっては、それが勢いを増し繰り返されることもある。

 イラクは、長年にわたり、状況に合わせさまざまなテーマや手法を組み合わせて利用し、また新たな機会をすばやくとらえて偽りの情報を広めてきた。イラクの情報工作は、細心の注意が払われ入念に計画されている。イラク政府は、この情報工作活動に多大な資源をつぎ込み、いくつかの目覚ましい成功を収めている。


 イラクの主な情報工作手段
  • 演出された苦難と悲嘆 
  • 軍事施設と民間人・施設の併設 
  • ジャーナリストの移動制限 
  • 虚偽の主張または情報開示 
  • 虚偽の一般市民インタビュー 
  • 自作自演の破壊行為 
  • 虚偽の公式発表
  • 虚偽の記事の秘密裏の配布 
  • 検閲 
  • 虚偽の、編集加工された、または古いフィルム映像や画像 
  • 偽造文書

 フセインの欺まんの手段における最優先事項は、世界に向けて放映されるテレビ映像の操作である。そのために、外国人ジャーナリストの移動を制限し、ニュースの送信内容を監視および検閲し、古い映像または虚偽の映像を配給し、慎重に演出された事件や場面を用意する。中でも、イラク政府による最も皮肉に満ちた戦略は、実際に自国の民間人に苦難を与え、あるいは彼らに死さえももたらすような状況を作り出し、その責任を国連や外国の制裁措置に転嫁することにより、自国民の苦難を悪用することである。

 「欺まんと抵抗の10年」をはじめとする最近の米国政府の報告書は、国連の決議や兵器査察に対するフセインの欺まん行為を証明している。イラク政府によるその他多くの偽りに満ちた行為、特に今後繰り返される可能性の高い欺まんについての認識を高めるため、「欺まんの構造」では、1990年以降のイラクによる情報工作とプロパガンダの裏にある事実を考察する。フセイン政権の性格と歴史を考慮すると、さらなる欺まんの証拠が明らかになることはほぼ確実である。

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