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NAFTA10年、日本よぜひ

日経ビジネス2002年11月25日号
北米3カ国大使共同インタビュー

北米自由貿易協定(NAFTA)交渉開始から今年はちょうど10年。
本誌は、加盟3国駐日大使が一堂に会してのインタビューに招かれた。
日本をNAFTAに引きつけたい戦略意図がほの見える。(聞き手は谷口 智彦)

 米共和党大物上院議員だったハワード・ベーカー駐日米大使の公邸応接間で、インタビューは始まった。カナダのロバート・ライト、メキシコのカルロス・デイカサ各駐日大使と3人で、本誌だけにインタビューの機会を与えようという。あまり前例のない申し出だ。

  NAFTA本交渉が始まってちょうど10年。3国は記念合同シンポジウムを東京で開く(11月19日)など、節目をとらえNAFTAの宣伝に余念がない。初めその意図に戸惑ったけれど、3大使の話を聞くうち、日本産業界の関心をNAFTAにいま一度強く引きつけたがっていることが汲み取れた。

  同時に、日墨FTAを側面から後押ししようとする意図も感じられた。


(写真:中島 賢一)
(写真左から)駐日カナダ大使 ロバート・G・ライト(Robert G. Wright)氏 1971年産業貿易商務省入省、93〜95年駐米公使、95年国際貿易次官、2001年6月から現職。スイス・ジュネーブでの貿易交渉に長く携わる。

駐日米大使 ハワード・H・ベーカー (Howard H. Baker, Jr.)氏 1967〜85年米連邦上院議員、73年ウォーターゲート事件特別委員会副委員長、87〜88年レーガン大統領首席補佐官、2001年6月から現職。

駐日メキシコ大使 カルロス・デイカサ (Carlos de Icaza)氏 1970年外務省入省、駐エクアドル、アルゼンチン、ルクセンブルク兼ベルギー各大使歴任、98〜2000年外務次官、2001年4月から現職。

   NAFTAが加盟各国にとって大成功だったという点、あえて強調されるには及びません。それより日本とアジアにとって、NAFTAはどんな意味を持っているのでしょう。折からアジアでは、様々な自由貿易協定(FTA)案が論じられています。

  デイカサ その問いに答えるにはどうしてもメキシコの経験を話さざるを得ません。我が国にとってNAFTAは、米国、カナダへの市場アクセスを与えてくれたというにとどまらず、自国経済を変える何より効果的な触媒でした。同時に世界経済に対して自国を開き、統合していくうえでも有益だった。NAFTAとはメキシコで、経済構造改革と同義だったのです。

  かつ、新たに別の国とFTA交渉をする際、NAFTAがモデルになりました。これからメキシコを含め様々な国を相手にFTAを拡大しようとしている日本にとっても、NAFTAは貴重な前例となるはずです。

日墨交渉がスタート

   日墨FTAの実現性は高まっていますか。実現の暁、日本企業はメキシコをベースに、差別なく米、加市場に入っていけるわけですね。

  デイカサ 無論高まっています。10月、メキシコにおけるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会談の場で、日墨両国首脳はFTAを含む関係強化のための交渉を11月に開始すること、始めたら、できれば1年以内に妥結させることを合意しました。そしてメキシコに進出した日本企業は、北米市場は無論のこと、欧州市場へも差別なく入っていけます。今やメキシコは欧州ともFTAを持っていますから。

  ライト 3人がこうして揃って出てきたのはなぜかと思われるでしょう。1つには、日本企業の間に依然、北米市場を3つの国に分けて見ようとする傾向が根強いと思えたからです。カナダ、米国、メキシコがそれぞれ別個の経済であるかに見たがる傾向がいまだに残っている。3国は過去10年間、どんどん1つになってきたことへの認識が日本では不足していると思います。

  そしてもう1つは言うまでもなく、日本自身が数多くの国とのFTAを追求する姿勢に変わったからで、NAFTAは検討に値する良い先行事例に違いないと思ったからでした。

  カナダとしては、それが貿易の拡大・自由化につながる限り、2国間のFTAであれ複数国間のそれであれ、どんなものでも歓迎するつもりです。多国間の自由化を世界貿易機関(WTO)で追求しようとする傾向を、日本は長らく持ってきました。ちなみにカナダもこれには賛成です。しかし最終結果が貿易のさらなる自由化につながるなら、道筋は何でもいい。今日本がメキシコとFTAを持とうとしているのも、自由化に向けた前向きな姿勢の象徴で、大いに歓迎すべきことです。

   米国は今、米州自由貿易地域(FTAA、Free Trade Area of the Americas)構想実現に力を注いでいます。大変な課題で、アジアに目を向けるゆとりはあるのですか。

  ベーカー NAFTAが成功したおかげで、難しい貿易問題は関係の拡大強化というNAFTA流で解決できるという確信が強まりました。ほんの10年前まで、米国を含め世界のどの国でも、貿易の自由化は極めて不人気な政策だったことを思い出してください。無論米国には、中南米以外の国とFTAを結んでいく意向も、余裕もあります。

  何しろ当初国内で大変な抵抗に遭ったNAFTAは、今や米国にとっての成功物語であり、通商面で3国は1つの統合された存在になりつつあると国民にも思われているわけですから。

  しかもこの間に学んだ教訓は、NAFTAは単に貿易を自由化するだけの事業ではなかった、重要な副産物を生んだということです。NAFTAの結果、取引の慣行や制度がすり合わせられ、3国の経済制度が従来以上に透明になった。これが大事なのです。1つの証拠として、外国からの直接投資は日本でこそいまだに是非を論じる対象かもしれませんが、NAFTA3国では誰も言挙げしなくなりました。貿易自由化は、投資の自由な流れすらもたらしたと言えるわけです。

日米FTAはあり得ないか

   マンスフィールド氏が駐日米大使だった頃、日米FTA構想がありました。もう顧みられない議論ですか。

  ベーカー いまだに重要な論点だと思います。マイク(マンスフィールド)時代以上に重要だとさえ言える。なぜなら米国と日本はこの20年、一層近づいてきたからです。両国経済はますます相互に結びつき、貿易摩擦は消滅しないにせよ、少なくなりました。

  今日両国は、(米国から日本への)直接投資をどう増やすか真剣に議論しています。資本余剰の日本に、外国資本は要らないかもしれない。しかし対米投資した日本の自動車会社が米自動車産業に効率性をもたらしたと同様、日本企業も外国からの直接投資を受け入れることで、先進ノウハウを会得することができます。

  これらの点を論じている両国は、口にこそ出さないだけで、マイクが考えたFTAによる貿易投資の活発化という方向に向け、事実上進んでいると見ることができるわけです。

   ただ日本は、毎日中国からの磁力を感じている…。

  ベーカー 日中関係も米中関係も、ゼロサムゲームではあり得ない。米日中各国経済がダイナミックに伸びていけば、遠くない将来、必ずや互いの間で貿易・投資障壁を取り払おうという機運の盛り上がる時が来るはずです。

  似た面以上に違いが大きい国同士の間ですら、自由化はうまくいくというのがNAFTAが我々に教えてくれた教訓で、これは日中間にも妥当するでしょう。また、中国を世界貿易システムにもっと統合させていくうえでも、自由貿易の利点を証明したNAFTAの経験は有意義だと思います。

西半球単一通貨は?

   FTAAの延長上には、欧州でそうだったように単一通貨の構想があるのですか。

  ベーカー それはFTAAの交渉で扱うには最も難しい問題です。通貨主権とナショナリズムに関わりますから。単一通貨の実現を今から求めた日には、他のもっと優先すべき課題が足を取られてしまうでしょう。

   カナダにはカナダドルを放棄し、米ドルを採用すべしと唱える人たちがいますが…。

  ライト 学界や経済界の一部でしょう。単一通貨の是非は、我々3国間で議論の対象になったことはありません。

  それよりはっきりしていることは、FTAが今後とも世界中で増えていくということ、その際NAFTAは良いひな形になり得るということです。

  NAFTAをとかく静的にとらえる見方がありますが、実は進化を続ける動的なプロセスなのです。

  例えばNAFTAには、30もの作業部会があって、各国規制の統一、不要な規制の撤廃などを検討している。文字通り、毎週寄り集まっては協議を続けています。その意味でも、これからFTAを作ろうとする国に良い前例を提供している。

  ベーカー 通貨の議論でナショナリズムに言及しましたが、NAFTAがもたらした最大の教訓とは、思うに、こと経済活動、産業活動に関する限り、加盟3国にはナショナリズムの感情がほぼ消えてなくなった点にこそあるという気がします。自動車であれ何であれ、製品を直ちにカナダ産だ、メキシコ産だと国に結びつけてとらえる発想法自体がもはやなくなった。

  ひょっとするとこれこそが、NAFTAが世界になした最大の貢献と言えるかもしれない。私にはそう思えます。

  ライト 実際その通りで、3国の企業は素直に「北米企業」だと自任しています。カナダ企業だとか、メキシコ企業だとはもう思っていない。単に4億人の市場を相手にする会社だと、そう思うに至っています。

  ベーカー 「フォード・クラウンビクトリア」と言えば、米国自動車産業をある時期象徴していた名車です。それが今や、カナダ製、メキシコ製部品の比率が多すぎて、定義上「米国製車」と見なせないという。

  新聞でその事実を知った時、私は米国民にどんな心理的拒絶反応が起きるかと内心恐れました。しかし結局、何も起きなかった。万事そんな調子で、ナショナリズムは影を潜めてしまった感があります。

  デイカサ ちなみに、北米で現地生産される日本車についても、全く同じことを指摘することができます。

  NAFTAが発足して以来9年間、3国のいずれかに進出していた日本企業自身も、その恩恵に浴してきました。またメキシコにとって、カナダが今や米国に次いで2番目に大きな貿易相手となったのは、もちろんNAFTAのおかげにほかなりません。

  その次に大きな貿易相手である日本ともFTAを持ちたいと思うのは、この間の成功体験に照らしてみれば、全く自然な発想であることが分かっていただけることでしょう。

  ライト 日本企業は、実は最も大きな声を上げ、我々3国にもっと統合すべきだと迫っている事実もあります。

   今後各国はどうFTAを増やしていきますか。

  ライト カナダは現在、イスラエル、チリとFTAを持っています。今、シンガポールと交渉中で、コスタリカとは最近交渉を妥結させました。今後ここから中米諸国に拡大させます。

  デイカサ メキシコはブラジルとFTAに向け交渉中、次は多分アルゼンチンでしょう。しかし何といっても日本とFTAを結ぶのが最重要事です。

この記事は日経BP社の特別許可を得て掲載しています。

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