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*以下は、2003年8月25日付日本経済新聞の「経済教室」に掲載された記事を、日本経済新聞社の許可を得て転載したものです。

自由貿易と世界

WTO、日本の指導力期待

新たな市場拡大 新ラウンド、重大な局面

ハワード・H・ベーカー
駐日米国大使

【要約】

 世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(新ラウンド)が中間合意に向けヤマ場を迎える一方で、特定の国・地域の間で市場を開放する自由貿易協定(FTA)の拡大もめざましい。世界経済にとって自由貿易の推進が今なぜ重要か、米国のベーカー駐日大使らが寄稿した。

【本文】

日本の成功を世界が手本に

 日本は歴史上最大の貿易国家のひとつである。最先端の通信機器を携えたビジネスマンを世界の隅々にこれほど多く送り出している国は現在の日本以外にない。自動車、家電・電子機器、工作機械、特殊鋼、コンピューターゲームとソフト、アニメなど世界の顧客のニーズを満足させる製品をこれほど幅広く製造してきた国もない。そして日本ほど自国民の生活の質の向上のために世界の貿易システムを巧みに利用してきた国もなかった。

 世界の貿易システムへの全面的参加を望む国は多い。それらの国々は日本など海外から自動車や電子機器、食品やワインなどを購入するのに必要な外貨を得るため、競争力ある製品を輸出し日本が示した手本に習いたいと思っている。彼らは日本が効率よく生産した製品を貿易相手国が積極的に市場を開放し購入したことで大きな恩恵を受けてきたこと、実際、輸出の増加につれ賃金も上昇してきたことを目のあたりにしてきた。

 彼らは自国民の生活の質の向上のために日本の経験を応用しようと懸命に取り組んできたが、結果はさまざまだ。彼らにとってドーハ交渉(新ラウンド)は死活的に重要だ。彼らは「ドーハ開発アジェンダ」を世界の貿易制度を改良する数十年に一度しかない機会であると認識している。

 しかし、その機会を現世代が台なしにするのではないかという危ぐが強まっている。9月中旬にメキシコのカンクンで開かれる閣僚会議は貿易自由化交渉における重大な局面と位置付けられる。この会議は世界の貿易担当閣僚が交渉の中盤でこれまでの進ちょく状況を再検討する場である。

 年月としては2005年1月までの交渉期限の中間点だが、実質的な作業の大半はまだ終わっていない。その前進のために米国、日本をはじめ世界の主要貿易国は共にいくつかの厳しい決断をする特別な責任を負っている。そうした困難な決断は短期的に痛みを伴う結果をもたらすかもしれない。しかし、この歴史的な機会を見逃すには問題が大き過ぎる。

摩擦乗り越え相互理解進む

 より自由な貿易と、現状維持のコストを慎重に比較検討しなければならない。ここで最良の例となるのは強力な日米貿易関係がもたらした、以下のような恩恵である。

 まず両国が異なる分野における比較優位を生かすことで産業活性化と雇用創出が可能になった。テネシー州にある私の故郷の町での最大の雇用主は日本の自動車部品会社だ。もし日本の自動車メーカーが自動車を輸出することで米国市場で存在を確立していなければ、この部品会社の米国進出もなかったであろう。

 消費者にとっては、自国の企業が提供できるものより安価で幅広い範囲の製品を選択できるようになった。輸入品との競争が起き両国の産業が刺激され、より良い製品をより低価格で生産するようになり、両国の産業の国際競争力が向上した。企業は規模の経済を活用することが可能となり、製品開発研究を進めるために必要なより大きな市場を手にした。

 貿易はわれわれの暮らしを豊かにした。米国人はスシとアニメを楽しむことを覚え、日本人はボーズ社製のスピーカーでジャズを聴きながらカリフォルニアワインを飲みアラスカ産のシーフードを食するようになった。両国の企業は自社製品を相手市場の消費者に適合させるために奮闘し、相手を理解しようと懸命に努力した。

 こうした企業はしばしば国際理解を深めるリーダーともなっている。例えば米国の高校教師を日本に招き日本社会や文化を良く知ってもらうというトヨタ自動車のプログラムである。日米のビジネスマンによる努力が一助となって、両国は「貿易摩擦」を乗り越え両国の政治・経済関係を強化できた。日米の貿易パートナーシップの下で双方の企業が問題に取り組みこれを解決し、また新たな機会を利用して信頼と友情に基づく個人間の関係が大きく広がった。

 日米の貿易や投資が拡大しており、われわれは利害を共有している。テロの脅威のような問題が発生すると、その解決へわれわれは協力する。なぜなら日米の企業活動がその解決策に左右されるからだ。つまり、貿易が2国を結びつけたからこそ両国はより強い関係を享受し、互いをより良く理解しているのだ。

 ドーハ交渉とは、すべての国が貿易を通じて経済を発展させる機会を持ち、すべての国の消費者が貿易拡大に伴う選択肢の増大から利益を得る世界を協力してつくりあげる、特別な機会を意味する。日米は世界の2大経済国として、カンクン会議に向け弾みをつけるために必要な指導力を発揮しなければならない。

 日本はしばしば自国の影響力を過小評価している。貿易に関して日本は途上国の単なる手本ではない。日本は世界の貿易経済体制において非常に重要な役割を果たしており、日本が指導力を発揮しなければ、ドーハ交渉を経て活力ある成長を続ける貿易システムが生まれるとは考えられない。

 過去10年の成長の低迷で、世界の多くに悪影響が現れた。ドーハ交渉は世界の貿易と経済成長を刺激する明確で意欲的な合意を確立するために極めて重要である。交渉が成功すればWTO加盟国は加工食品や繊維などの製品の関税を削減する。これにより途上国にとって新たな輸出市場が生まれ、所得増加に資する。所得が増えれば途上国の消費者は日本の家電・電子機器や米国のソフトなど先進国の製品の購入を増やす。貿易が拡大すれば誰もが利益を得る。

 問題は貿易だけではない。新ラウンドは貧しい国の農家が豊かな国の農家と競争することを難しくしている農業補助金や輸出補助金を削減し、先進国と途上国が同じ土俵で競争できることを求めている。また、知的財産権の保護を推進し、発明家や芸術家が自らの発明や作品からより多くの利益を得られることを目指している。日本や米国で最も急成長している分野のひとつであるサービス分野でのルール強化も求めている。これら多くの分野で前進があれば日本は大きな利益を得る。

世界経済の基盤確かに

 交渉が中間点に到達しようとするなかで、各国がこのラウンドが失敗することの代償と成功から得る利益を共に考慮することが重要だ。もし、われわれが隔たりを埋めることができなければ、貧富の差を縮小させる重要な機会を失うだろう。世界的に市場を開放することに失敗すれば、地域的に市場を開放する関心を刺激し、貿易ブロックを生み出すことになる。

 世界中の金融アナリストがこの交渉の推移を注意深く見守っている。なぜなら、それが失敗すれば、すでにぜい弱な世界経済の基盤がさらに損なわれるからである。

 交渉に参加する140以上の国・地域はより自由で公平な貿易がすべての人々のために経済成長と安定を支えていく世界をつくるため、この機会をどう生かすか懸命に模索している。事実、WTO加盟国の要請に応えて米国と欧州連合(EU)は、農業交渉を推し進める手段となり得る枠組みをつくり発表した。

 世界中の貿易国はカンクン会議に向けて日本の指導力を期待している。今こそより多くの人々の幸福を模索するときだ。われわれには実現させたい世界の明確な展望とそれを形成するための勇気と指導力が必要となる。私は貿易の拡大を通じて世界の繁栄を拡大させるドーハ交渉を成功させるため、日本が自らの役割を果たし、そして、この崇高な目標に到達するため日米両国が協力できることを確信している。

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