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*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

第10回国際交流会議「アジアの未来」(日本経済新聞社主催)における講演

ハワード・H・ベーカー 駐日米国大使
2004年6月3日
東京・帝国ホテル

 ベーカー大使:どうもありがとうございます。私にとってこの会議に出席させていただくことは大きな喜びであること、そして、このように大勢のアジアの指導者の皆様を前に、この地域の将来についてお話しするのは非常に光栄であることを、まず最初に申し上げたいと思います。私にはもはや若さゆえの「苦労」はありませんが、私は、豊富な経験と大きな責任を持つ方々がこうして一堂に会する集まりでは、いつも「新入り」のような気持ちになります。米国は若い国家であり、私は同胞とともに、文化、すなわち世紀単位ではなく千年紀単位で歴史をさかのぼることのできる皆さんの文化に敬意を表します。米国が飛行機や自動車の発明を振り返るのに対し、アジアでは農業や哲学、宗教が生まれたことを振り返ることができます。そのことを思うとき、われわれは謙虚にならざるを得ません。

 しかし皆さん、私たちがここに集まったのは、過去を振り返るためではありません。未来を展望するためです。私たちは、技術面でも文化面でも、大きな変化の時代に生きています。国際社会は、瞬間的なコミュニケーション、そしてほとんど即時的な輸送へのアクセスを基盤として成り立っています。どんな子どもでも、マウスとインターネット接続があれば、私が若い頃の最も偉大な学者たちが、世界で最も優れた図書館で半生をかけて調査したよりも多くの情報を、楽々と手に入れることができます。それだけでなく、今日の平均的な市民は、両親が生涯に旅したよりも長い距離を1日で移動することができ、そう遠くない過去には最も特権的かつ冒険好きな探検家でも行けなかった地球の果ての秘境へも、快適な旅をすることができます。このような、世界とそのさまざまな思考へのアクセスは、私たちの思考方法そして生活様式を必然的に変えるはずであり、事実変えています。 

 この国際交流会議のテーマは、「アジアの地域的統合の基盤を築く」というものですが、そのような地域的統合が多くの意味ですでに大きく前進していることは明らかです。その統合の主な原動力となってきたのは経済です。日本に始まり、現在では東アジア全体、そして東南アジア、さらにはインドまで拡大したアジアの経済力の台頭は、何億もの人々を貧困から救い出し、世界の力の均衡を変化させ、人類の幸福と自由を追求するという私たちの共通の活動における新たな同盟国を生んできました。そして、その大きな部分は、民間部門の主導で行われた貿易・投資の大幅な増加による成果でした。

 日本は、言うまでもなく、アジア地域全体で貿易・投資を推進する最初の地域的リーダーとなりました。現在では、極めて活発な中国経済がこれに加わり、地域の成長のもうひとつの主要な推進力となっています。アジア各国政府の多くは、より緊密な地域経済関係という考え方を支持し、地域全体にわたる自由貿易協定のネットワークを築き始めています。私はこうした展開を全面的に支持するものであり、こうした目標が十分に高く設定され、支持され、共同で実行されること、そして世界の貿易・投資およびそれに関わる各機関に良い影響を及ぼすことを願っています。

 アジアにおける地域的機関の構築は、他の一部の地域に比べると遅れていましたが、東南アジア諸国連合(ASEAN) とアジア太平洋経済協力会議(APEC)が、成年に達しつつあり、地域統合のための組織的枠組みを提供し始めています。こうした活動の一部は、9・11後の世界における地域安全保障の強化に向けられており、これは私たち全員が歓迎している進展です。このことは、アジア地域の諸国が、各自の地域的アイデンティティーを高めると同時に、世界市民としての責任を遂行できることを表している、と思います。

 しかし、安全保障協定や業務提携は重要ではありますが、地域統合の課題はそれだけではありません。地域の統合とは、経済の統合に加えて、文化の統合でもあります。それは、各社会の共通点を称えると同時に、それぞれの文化の特性を尊重するものです。私たちは、アジアと米国の若者が同じ音楽を聞き、同じ映画を鑑賞し、同じ洋服を着て、ますます同じ食べ物を食べるようになっていることをよく例に挙げます。彼らは、その親の代には見られなかった多くの共通点を持っています。それまでのどの世代に比べても、彼らは同じ時代を共有しています。

 しかし、彼らは同じ場所にいるわけではありません。彼らの世代が共有する文化は全世界を結ぶ橋を築いていますが、一方で彼らはそれぞれの土地の文化を持っています。家族は、固有の特徴を持つ個人で構成されますが、地球という家族も同様です。従って、統合とは、異なる文化の中からひとつを選ばなければならないということではありません。今日の若者は、世界市民であるかもしれませんが、同時に、日本、中国、韓国、インドネシア、マレーシア、シンガーポール、そしてフィリピンの各国の市民でもあるのです。

 米国は、いくつもの国と見なすことができる、ということを忘れてはなりません。米国内には著しい地域的な相違と歴史的な対立がいくつか見られ、米国民は地球上でも有数の文化的に複雑な国民であり、その度合いはおそらく日に日に増しています。しかし、私たちは、お互いの相違点より共通点の方が重要であることを認識しています。

 私は、アジアの長い歴史について触れましたが、それは古代の歴史に限ったことではありません。アジア諸国がともに未来を築く努力を続ける中で、日本と米国がわずか2世代の間に、最近の悲惨な戦争の歴史を克服し、他に比類のない同盟と友好関係を築いたことは、記憶にとどめておく価値がある、と思います。私たちは、過去の対立を乗り越え、現在では友人となっています。日米間には意見の相違もあり、その一部は極めて複雑かつ感情的なものですが、私たちはそうした相違を、相互のためになる形で解決しています。この地域の各国は、それぞれが他の国々との間に独自の歴史を持っており、またパートナー各国が過去に対して異なる視点を持っています。こうした多様性は、その相違という観点を通じて表出されると対立につながる可能性がありますが、共通の価値観、共通の目標という観点から表出されれば、力とエネルギーをもたらします。地域の統合を強化するには、自己利益が多角的なものとなることが必要です。

 最近における地域統合の同様の例として一番に挙げることができるのは、欧州社会の劇的な変身です。欧州連合は一夜にして成功したわけではありませんが、その成功の理由は、加盟国が、過去にいかなる対立があったとしても彼らの未来は協力にかかっていることを理解しているからです。今日、アジアはその共通点を探索していますが、それには克服すべき大きな障害がいくつかあります。成功を収めるためには、アジア諸国はヨーロッパよりさらに長い歴史を持つ、さらに多様な文化を統合しなければならず、しかも世界的なテロという病が世界各地で万人に脅威をもたらす中で、それを実行しなければなりません。最も注目されるのは中東かもしれませんが、私たちは皆、危険な地域に住んでいるのであり、テロリストを生み出す環境をはじめ、私たちの安全保障を脅かす課題が存在することを、私たちは認識しています。そして、その危険は、宗教的狂信に限られたものではありません。北からの核の脅威は、信仰とは関係なく、私たち全員の上に影を投げかけています。過激主義が敵であることは事実ですが、イデオロギーの歪曲や独裁的な野望、狂信者の暴力的な行為や無法政権による組織的な弾圧、そして扇動者の小規模な細胞や国家の支援を受けた全体主義者も、同様に危険な存在です。

 私たちは、この戦いにおいて前進しています。イラクでの最近の展開には、勇気づけられます。新しいイラク暫定政府が決定した今、国際社会がイラク国民と、その完全な主権の移譲への支持を表すことが不可欠です。ブッシュ大統領は、米国がイラク政府に対する支持を確約していることを明らかにしています。また、川口外務大臣と細田内閣官房長官が支持の声明を出し、日本がこれまでと同様、イラク国民による自由で民主的な繁栄する国家の形成を支援する姿勢を示したことも、意外なことではありませんでした。イラク新政府は、ブラヒミ国連特使による何カ月もの協議の成果であり、イラクの幅広い各層を代表するものです。 私は、イラクの首相に指名されたアラウィ氏の、「イラクが自立できるようになるまでイラクに対する保護に貢献」してほしいとの呼びかけに、国際社会が応えることを望んでいます。 

 国際社会は、ミクロの世界からの脅威にも対応しなければなりません。先に移動性についてお話ししましたが、それは疾病の移動性をももたらします。そして、そうした疾病は、医者や科学者が治療法を発見するのと同じ速さで、変化し適応しているようです。重症急性呼吸器症候群(SARS)は、この地域と密接なつながりがあります。また、エイズは、銃や爆弾で私たちを脅かす敵と同様に、確実に打ち負かさなければならない文明の敵です。また、各国政府は、市民の安全と国家安全保障に対する責任と同様に、食品の安全性と食糧安全保障に対する責任を果たさなければなりません。そして、私たちは、この地球の健全性をどのように保護するかについて合意する必要があります。私たちが環境の保護に失敗すれば、それ以外に何を達成しようとも、未来の世代にとっては無意味であるからです。

 従って、皆さん、私たちの課題は、あらゆるウィルス、すなわち生物的、技術的、あるいは思想的なウィルスが、文明の体内を侵すのを防止することです。私がその解決法を提供できるとは思っていません。私が長年の公務の中で学んだことがあるとすれば、それは自分が誤りを犯す存在であるということです。しかし、私は、繁栄なしに平和を維持することはできないと信じています。そして富の創造には、世界経済について私たちが学ぶべき明らかな教訓があります。その中でも最も明白なものは、私たちが作り出す経済的な障害が少なければ少ないほど、誰もが恩恵を受けるということです。往々にして、貿易障壁の役割は、人々が競争の機会と奨励を与えられれば達成できる成功から人々を隔てることでしかありません。

 しかし今日、競争をするためには、私たちは希望を抱く者と希望のない者とを隔てる壁を取り壊さなければなりません。それは、教育の壁です。子どもたちに限界があるとすれば、それは私たちが彼らに与える限界だけです。若者に適切な学校と、イデオロギーに左右されない訓練された教師と、コンピューターなど21世紀の学校生活の基本的な必需品を提供すれば、彼らは学び、成長し、私たちの夢をはるかに超える業績を達成するでしょう。彼らにそうした機会を与えることは、私たちの義務です。彼らが失敗するとすれば、それは私たちがその義務を果たさなかったからです。

 皆さんが代表しているのは、今日世界で最も人口が多く、最も多様性に富み、いくつかの点で最も活力に満ちた地域です。アジアは、文明の初期から、歴史のほとんどを通じて、思想の泉であり、それが今後も皆さんの力となる、と私は考えています。私は、科学の発展は文化の発展につながる、と強く信じています。宇宙計画は、その開発当時には想像もされなかったさまざまな面で、米国と世界に恩恵をもたらしました。医療技術、コンピューター技術、通信技術において、今日の世界の形成に貢献した極めて多くの発明は、米国の宇宙計画への投資がもたらした直接の成果です。さらに重要な点として、それは米国の若者の心を未来へと開き、私たちは今後も彼らの創造性と発明の恩恵を受け、それは私の孫たち、そして未来の世代、皆さんの子どもや孫たちへと続いていくことが期待されます。 

 そこで、最後に申し上げたいことがあります。偉大な指導者たちがここに集まり、今後その後継者が、アジア地域統合の政治、経済、安全保障の複雑な課題に取り組むに当たり、今後も、アジアの若い心が自らの発想によって世界を変えられるようにする方法を常に探し求めることを、私たち全員が優先事項とよう、私は願っています。彼らに必要なのは、思想の泉が自由に流れるようにすることだけです。 

 どうもありがとうございました。

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