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オニール米国財務長官が日本経済の強化策を提案

2002年5月2日

(ジャパン・ソサエティ、ニューヨーク)

(注:本稿前半部分は米国務省資料「ワシントン・ファイル」スタッフ・ライターによるオニール財務長官講演の要約であり、草稿本文は後半部分に掲載されている。)

 ポール・オニール財務長官によると、日本は経済成長の回復のため、デフレを克服し、金融問題を処理し、経済の規制撤廃・緩和を進め競争を促進する、という3つの措置を取ることができる。

 オニール長官は、5月2日、ニューヨークのジャパン・ソサエティでの講演の中で、健全な日本経済が、世界経済にとって重要であることを強調した。

 長官は、「世界の主要経済国は、自国民の利益のため、またより広くは全世界の人々の利益のため、その潜在力を最大限発揮し成長する必要がある」と述べた。

 オニール長官によると、日本経済の成長を阻んでいる要因の1つは、銀行が多額の「不良」債権を抱えていることである。

 長官は、「日本の金融市場が正しく機能しているならば、債務を返済できない企業は再編され、または必要ならば整理され、資本資産がより生産的な使途に使われることになる」と述べた。

 オニール長官は、日本の金融機関が「不良債権について厳格な判断を行い、リスク水準に見合った金利で新たな融資を行う」ことを求めた。

 長官は、「銀行は、国際市場でも資金調達できる世界的な優良輸出企業には、最も低い金利で融資すべきである。一部の安定した企業よりリスクは高いが、成長性や新産業の萌芽となることが期待される起業家や確かな新規事業に対しては、それより高い金利の融資を行うべきである。そして、生産性が低く、多額の債務を抱え、現実性のある再編計画も持たない企業への融資には、最も高い金利を付けるべきである」と述べた。

 オニール長官は、日本政府が金融庁を設置し、整理回収機構を強化したことは「正しい考えである」とし、「私は、小泉首相の取り組みは正しい路線であると確信する。今はそれを実現しなければならない」と語った。

 オニール長官はまた、小泉首相が構造改革に関心を持ち、民間主導による経済成長を重視する点を支持した。

 オニール長官は、「首相はすでに、非効率な公共事業支出を削減し、特殊法人を廃止または民営化する措置の概要を示している。また首相は、公的債務の急増を抑えるため、財政赤字を大幅に削減する必要があることも明らかにしている」と述べた。

 オニール長官は、経済が成長するには国際競争が重要であることを強調し、「国際貿易は、企業が最も優れた企業と競争し、その能力を最大限に発揮できる環境を提供する。国家間の貿易が繁栄するのは、(国家の貿易)措置や対応を律するルールに各国が同意しているからでもある」と述べた。

 「円滑な貿易環境を維持するには、各国が同意する紛争解決制度が極めて重要である。世界貿易機関(WTO)の紛争解決手段に依らない一方的な貿易措置は、世界の貿易体制に悪い慣例を残すことになる」と述べた。

 オニール長官によると、米国は9カ月間にわたり、国際貿易ルールに則って鉄鋼セーフガード(緊急輸入制限)調査を実施・点検した。長官は、「この措置に対し苦情を持つ国は、WTO紛争解決プロセスを通じて救済を求めるべきである」と述べた。

以下は、「日本の病める銀行制度は治療できるか」と題するオニール長官の講演草稿である。

 私は日本に好印象を持っている。私は、民間部門での経験を通じ、日本企業が国際競争の難関に立ち向かい、また他国にも同じことを促す能力に、最大の敬意を抱くようになった。ソニーやトヨタを始めとする日本の企業は毎年、世界の消費者により良い製品を低価格で提供し、世界中の企業にも同じことを促すような機会を提供し、世界的な製造業のあるべき姿を示した。

 多くの意味で、米国が70年代末から80年代初めにかけての沈滞から抜け出し、今日の状態まで立ち直ることを強いたのは、日本からの挑戦だった。米国企業がその挑戦を受けて立ち、生産性と品質を大きく向上させたのは、日本企業との競争に直面したことによるところが大きい。

 また、日本の労働者の勤勉さと生産性は世界有数のレベルにあり、彼らが過去半世紀の自国経済の実績に誇りを持つことは当然である。

 しかし、日本経済の潜在力を信じる者すべてにとって、過去10年は苦い時期であった。それまで世界最高レベルの成長が数十年も続いた日本の国内総生産(GDP)は、過去10年間、年間成長率が平均わずか1%にとどまった。失業率は上昇し、デフレが消費と投資に暗い影を落とし、銀行や企業は多額な不良債権を抱えている。

 これだけの潜在力と過去の実績を持つ日本が、なぜこの10年間これほど低迷しているのか。さらに重要なのは、どうすれば日本は成長を回復できるのか。日本にとっても世界にとっても、日本が本来の成長を達成できない代償は大きい。日本国民はより高い生活水準を享受する機会を逸しており、若者も雇用市場から締め出されている。他国も、製品・サービスの輸出先としての大きな日本市場を失っている。

 実際、仮に日本経済が過去10年間、潜在力に見合った年率3%成長を続けていた場合、2001年の実質GDPは20%以上高かったはずである。これだけでも9000億ドルもの違いとなる。さらに、この10年間、日本が潜在力に見合った成長を達成できなかったため、合計で5兆ドルの所得を失った。国民1人当たり4万ドル近い所得損失となる。この損失は、生活水準が低下しただけでなく、将来の成長のための投資が7600億ドルも少なくなったことを意味する。

 日本が成長を回復するための措置を取る課題として、デフレの克服、金融問題の処理そして経済の規制撤廃・緩和と競争の促進の3点がある。

 私は最後の課題が最も重要であると考えるが、ここでは今挙げた順序で取り上げる。

 日本は過去7年間デフレに陥っており、最も広範な物価指数であるGDPデフレーターは年率1%近く下落している。

 このデフレ現象は、債務者の負担を拡大するとともに、投資や消費を抑制し、日本経済をむしばんでいる。日本経済が回復し成長するには、デフレは持続するという期待に終止符を打つ必要がある。

 日本銀行は昨年3月、物価指数の前年比上昇率がゼロ%以上になるまで通貨供給量を拡大することを約束した。それ以降、日銀は、ベース・マネー(中央銀行当座預金と中央銀行券)量の伸び率を急拡大させてきた。しかし、金融部門全体の通貨供給量の伸び率はほとんど変化しておらず、デフレは依然として残っている。

 金融緩和の継続は、日本経済の問題に対処する重要な措置の1つであるにもかかわらず、ベース・マネーの拡大が、銀行融資の拡大につながっていない。

 なぜ銀行が融資をしないのか。それは流動性が不足しているからではない。融資が伸びないのは、日本の銀行と民間部門がバランスシートに大きな問題を抱えているためである。

 金融機関の重要な役割の1つは、金利を公正かつ正確に設定することで、預金者と投資家の間で資本の配分を行うことである。金融部門が健全であれば、リスク水準に合わせて資金を最も有効に使うことができる企業に資本が供給される。

 日本ではそれが実行されてこなかった。日本には十分な資本が存在するが、依然としてその多くが、失敗した投資を下支えすることに使われており、より良い機会や成長を刺激するためには使われていない。一部の銀行は、あまりに多くの古くからの不良債権に縛られているため、有望な分野においてさえ新たなリスクを取ることを恐れており、これがさらに経済成長を妨げている。

 ある推定では、日本の銀行の融資のうち25%近くが破綻または破綻寸前である。

 こうした債権の多くが「不良」と定義されている。不良とは、「非生産的」であることを意味する。不良債権は、日本経済のために生産をしていない。あるいは、少なくともその存在を正当化するだけの生産をしていない。

 銀行の融資は、成長のための手段であり、生命維持装置ではない。

 日本の金融市場が正しく機能しているならば、債務を返済できない企業は再編され、または必要ならば整理され、資本資産がより生産的な使途に使われることになる。

  金融機関は不良債権について厳格な判断を行い、リスク水準に見合った適正な金利で新たな融資を行わなければならい。例えば銀行は、国際市場でも資金調達できる世界的な優良輸出企業には、最も低い金利で融資すべきである。一部の安定した企業よりリスクは高いが、成長性や新産業の萌芽となることが期待される起業家や確かな新規事業に対しては、それより高い金利の融資を行うべきである。そして、生産性が低く、多額の債務を抱え、現実性のある再編計画も持たない企業への融資には、最も高い金利を課すべきである。

 余りに多くの投資が収益性の低い用途に向けられているため、投資の生産性が低下してきた。日本の資本ストックは、過去10年間、他のどの主要工業国より急速に増加したが、大きな成長に結びついていない。

 これを別の観点から見ると、日本のGDPは米国のGDPの半分にも満たないが、日本の資本ストックは米国のそれにほぼ等しい。すなわち、米国の固定資本投資の生産性は、平均で日本の約2倍となっている。

 日本では、投資される資源が、最も生産性を発揮できるところに投入されていない。健全な資本が不良分野に投入されている例が多すぎる。

 新しい世代の銀行経営者・企業経営者は、破綻しつつある会社について必要な手を打つべきで、労働者が苦労して蓄えた預金を無駄にしてはならない。それは、困難で絶望的な破綻による終焉を待つよりも、まだ救うことに価値がある今のうちに実行した方がよい。

 不良債権を処理し、銀行のバランスシートを改善するためのアドバイスはいくらでもある。語られるべきことはすべて語られている。

 日本政府が金融庁を設置し、整理回収機構を強化したことは、正しい考えである。私は、小泉首相の取り組みは正しい路線であると確信する。今はそれを実現しなければならない。

 米国やその他の国が過去20年間、痛みを伴う金融危機に対処しなければならず、それを乗り越えた結果よりよい状態になったのと同様、日本も自らの危機に対処しなければならない。私は、日本はそうすると確信している。その場しのぎや先送りの時期は過ぎた。行動すべき時であり、それは早ければ早いほど良い。

 日本の金融問題は、実体経済の問題を反映している。不良債権は、投資選択を誤ったことを表す症状である。したがって、日本は資本を不良債権の呪縛から解き放つ一方、民間部門は、投資が生産性を改善し、極めて高い収益を生む真の投資機会を見極め、そこに資本を移動させなければならない。収益性・生産性の低い産業から、より収益の上がる分野へ資本やその他の資産を移動させることが、経済成長を改善するカギとなる。

 高い成長が期待できる機会を確保し、企業がそれを十分に活用できるようにすることは、経済がその潜在力を完全に発揮するために必要であるが、このことは特に、日本にとっては重要である。

 条件が整えば日本の企業が対応できることに疑問の余地はない。トヨタやキャノンなど日本の多くの輸出企業は、世界でも有数の競争力を持っている。こうした企業は、常に革新と外国の競争環境に適応しており、それによって世界中の消費者、従業員、そして株主が恩恵を受けている。

 日本で最も成功を収めている企業が属する産業に共通する特徴が2つある。第1に、国内の規制で管理できないということである。すなわち、当該産業は世界的な市場であるため、参入を規制したり価格設定したり、制約的基準を課すことができないということ。第2に、当該産業内で競争から企業を保護するすべがないことである。これらの企業は、競争に直面して、潜在力を最大限発揮する。

 残念ながら、日本の国内産業の余りに多くが、クモの巣のように張り巡らされた規制と貿易障壁によって保護されている。

 日本経済全般にわたって、規制障壁を撤廃し、競争を導入するには、貿易政策、規制政策、財政政策の分野で、細かいが極めて重要な数多くの判断がなされる必要がある。私も米国政府も日本政府に対し、どう前進すべきかを説く立場にはない。それは日本国民が判断すべきことである。

 そのプロセスには痛みが伴う。規制緩和・撤廃と構造改革によって価格競争が激化すれば、調整が必要となり、ある程度の混乱も避けられない。しかし、それは、機会を生み出すことにもつながり、国内外企業の新規参入を促し、雇用を増やし、経済成長を回復させることになる。

 小泉首相は、経済の回復と強力で持続的な成長には、「聖域なき」構造改革が必要であることを認めている。われわれは小泉首相を支持する。

 小泉首相のもう1つの功績として賞賛されるべきは、民間主導の成長を重視し、経済の生命維持装置としての公的支出の比重を低下させていることである。

首相はすでに、非効率な公共事業支出を削減し、特殊法人を廃止または民営化する措置の概要を示している。

首相はまた、公的債務の急増を抑えるため、財政赤字を大幅に削減する必要があることを明確にしている。経済財政諮問会議がこのプロセスに着手しており、私は、予算編成と執行によってこのことが実現されることを希望する。

 財政赤字の削減によって必要となる調整を容易にするもう1つの手段は、民間の事業活動に最大の便益がもたらされるような財政措置を選択することである。減税、特に民間の活動や投資を活発にするような減税と歳出削減を同時に行うことで、成長率を高め、財政収支の均衡を図ることができる。

 私は、国際競争の重要性について繰り返し話してきた。国際貿易は、企業が最も優れた企業と競争し、その能力を最大限に発揮できる環境を提供する。国家間の貿易が繁栄するのは、(国家の貿易)措置や対応を律するルールに各国が同意しているからでもある。

 円滑な貿易環境を維持するには、各国が同意する紛争解決制度が極めて重要である。世界貿易機関(WTO)の紛争解決手段に依らない一方的な貿易措置は、世界の貿易体制に悪い慣例を残すことになる。

 米国は9カ月間にわたり、国際貿易ルールに則って鉄鋼セーフガード(緊急輸入制限)調査を実施・点検した。この措置に対し苦情を持つ国は、WTO紛争解決プロセスを通じて救済を求めるべきである。

 先に述べたように、日本経済の潜在力と近年の歩みとの間には、大きな乖離がある。1991年時点では、日本経済の規模は中国の9倍近く、米国の5分の3であった。しかし、仮に日本と米国の過去10年間の成長率が今後も続き、多くのアナリストが予測するように中国が年率7%の成長を続けるなら、25年後には、日本経済の規模は米国の4分の1以下、そして中国の5分の4になってしまう。

 仮にそのような日を迎えるなら、われわれの後継者は、今日のような話題を取り上げもしないだろう。その時、日本はもはや世界経済の牽引車ではなく、貨車の1つとなっているだろう。

 そのような事態は回避されなければならない。日本は、世界経済の指導者として、全速力でわれわれの輪に復帰しなければならない。日本が今後25年間、年率3%の成長を続ければ、2027年には日本経済の規模は米国の約40%となり、中国より33%大きくなる。このことを目標とすべきである。世界の主要経済国は、自国民の利益のために、またより広くは全世界の人々の利益のために、その潜在力に完全に見合った成長を達成する必要がある。

 日本国民は、自らの未来を構築し、成長を回復する能力を持っている。それには、世界経済の競争から逃がれるのではなく、過去にそうであったように、競争を受け入れ真の潜在力を発揮することである。私は、日本国民はそうすると信じている。それは、私が日本に関して楽観的であるからだけでなく、失敗するには大きすぎる賭けだからである。

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