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アメリカがめざす開発人道援助とは

J. ブレイディー・アンダーソン
米国国際開発庁長官

(「外交フォーラム」2000年10月号に掲載されたアンダーソン米国国際開発庁長官の寄稿を、都市出版株式会社の許可を得て転載。)

 われわれは飢餓や病気、紛争、犯罪、テロリズムが日常化したような、破綻した国が存在する世界に生きるべきではない。そうした世界は、健康、安全、繁栄、ひいてはわれわれ自身や子々孫々の幸福を脅かすものである。アメリカは国民や近隣諸国を脅かすことのない安定した、比較的豊かな国家で構成される国際社会作りに向けて最大限の努力をしているが、そのためには、時間、忍耐、政治的意志、資源が必要である。米国国際開発庁(USAID)の役割はまさにそこにあると言えよう。

 USAIDが創設された1961年以降、世界の識字率は約20%向上し、平均余命は10年伸び、天然痘は撲滅された。小児麻痺もほぼ撲滅された。絶対的貧困層の割合も半減している。こうした前進は、すべて途上国の国民や指導者の努力があってこそなのだが、同時に開発人道援助なしでは実現しなかったのではなかろうか。

 私は現職に就いて1年足らずである。職務はきわめて多岐にわたるものであり、在職期間は長いとは言えないが、これまでにUSAIDの仕事の真髄を垣間見、感じることができたと思う。ボスニア・ヘルツェゴビナでは、ある村のスモモの木の下で、USAIDが帰還を支援してきた難民の話に耳を傾けた。また、ホンジュラスでは、ハリケーンによる大被害を受けたが、零細企業貸付を受けて元の生活を取り戻すことができたという女性に会った。

 この他、民主主義制度の強化のための法整備、活気に満ちた市民社会づくり、報道の自由化、正当かつ公正な司法支援、民間投資の推進・規制の両面を担う機関を作り出すといった長期プログラムもある。「民主主義制度の構築のための活動」は民主主義を円滑に根付かせるための柱であり、USAIDが行っているあらゆる仕事の中でも最も重要な仕事の一つに数えられている。また、強固な制度が外資を呼び込み、それによって雇用が創出され、ひいては持続的な経済成長につながるのも偶然ではない。世界の人口の大部分が新しいグローバリゼーション時代に取り残されないようにするためには、途上国の市場経済における民主主義制度を強化する努力をしなければならない。また、USAIDでは、目的が達成されたか否かを見るため、すべての仕事にモニタリングと評価を実施している。供与する援助の範囲や規模を問わず、常に「結果重視」を念頭に活動を行っている。

 新しい世紀に向かい、アメリカ議会や外交関係者の間で特に関心を集めているUSAIDの活動の全容が明確に分かるよう、USAIDのプログラムの鍵を握る項目を例に挙げて説明したい。日米両国は、世界中の人々の生活向上を目指して見事なチームワークを組み、現在に至っている(したがって、日本の読者の方々も関心を持たれるのではないだろうか)。

アメリカの対外援助

 経済開発援助(Development Assistance Account)と経済支援(Economic Support Fund)がアメリカの2大対外援助である。経済開発援助(DA)は、経済成長支援、人材育成、民主主義の支援・推進、環境保護、家族計画および関連のリプロダクティブへルス(性と生殖に関する健康)および一般的な保健・医療活動を対象とするものであり、経済支援援助(ESF)は、アメリカの経済的・政治的外交政策の利益を推進するものである。ESFの資金は、多くの場合、多国間で収支や経済安定プログラムなどへの融資に充当することができ、来年は、中東和平プロセスやアフリカにおけるいくつかの構想支援、ハイチやグアテマラといった過渡期諸国援助、インドネシアや東ティモール、カンボジア、ナイジェリアなどの民主主義強化、アイルランドおよびキプロスの平和と安定の推進に充てられることになっている。この2つの基金は、USAIDの経緯に詳しい人によく知られているものである。

 しかし、アメリカの対外援助においては、この他の特定基金も重要な役割を担うようになっている。例えば、子供生存・疾病プログラム基金(Child Survival and Disease Programs Fund)、国際災害援助基金(International Disaster Assistance Account)、アフリカ開発基金、ヨーロッパやユーラシアを援助する特定基金などである。優先順位が明らかになった時点で、こうした基金、および基金が対象とする特定の支援を企画・実施する戦略計画をすべて管理し、その責任を持つのもUSAIDの仕事である。次に、これらの基金について説明しよう。

感染症から子供を守る

 途上国では、はしか、破傷風、下痢など、簡単に予防できる病気で何百万人という子供が毎年命を奪われている。USAIDは、過去15年にわたり、アメリカ議会からの膨大な支援を背景に、子供生存対策プログラムに35億ドル以上を投じている。この間、1985年に出生1,000名に対して145名だった5歳未満児の死亡率は、今日では約116名と20%減少している。また、1998年には、それまで約200万人に上っていたはしかによる死亡が約97万人に半減した。2001年度は、子供生存対策プログラムの予算として6億5,900万ドルを要求している。

 HIV/エイズ、結核など感染症対策の資金も子供生存・疾病対策プログラムの対象である。USAIDは、特にアフリカとインドでHIV/エイズとの闘いを続けている。これまで、 HIV/エイズの予防支援およびHIV/エイズが社会に及ぼす壊滅的影響の緩和のために15億ドル近くが投じられている。結核による死亡者は年間約200万名に上り、HIV/エイズの蔓延とともにさらに広がっている。USAIDは、現在12カ国以上の諸国で結核対策プログラムを展開し、さらに対象国を増やしていく計画である。こうした諸国は世界でも有数の結核感染率が高い国であり、その多くにHIV/エイズの蔓延の影響も見られる。

 議会に対しては子供生存・疾病対策プログラム基金の2001年度予算として総額6億5,900万ドルを要求した。このうち、5億6,100万ドルは、子供の生存、HIV/エイズその他の感染症の予防、メンタルへルス(精神の健康)その他の保健プログラムに、9,800万ドルは基礎教育に充当する。

 どの国も、いつなん時起こる自然災害と無縁ではいられない。アメリカも例外ではない。残念なことに、世界では自然災害の件数が増えているばかりでなく(例えば、1990年から1999年の10年、中南米では史上最悪の自然災害が続発)、政治力によって発生し、悪化するものなど、複雑度が増した非常事態も増えている。アメリカ国民は、「助けたい」という気持ちを明確に表している。最近の例では、 USAIDは、モザンビークの洪水の被害者、「アフリカの角」地域の旱魃の被害者、コソボ、中央アフリカ、東ティモールの紛争被害者を援助している。

 災害や緊急事態による被害者を支援することは単に正しいだけでなく、そうすることが自分たちのためにもなるのである。ひるがえって、早くから救済措置を講じれば病気の蔓延を防ぎ、政治的安定を推進し、途上国は再び経済成長と制度構築という目標に向かうことができるようになる。来たるべき年には、USAIDは、災害に備えて2億2,000万ドルが必要になると予測している。

アフリカの開発のために

 現政権がアフリカのグローバル経済への組み入れを優先事項に挙げていることを受け、USAIDは、2001年度予算として、アフリカ開発基金(DFA)の予算を新たに別枠で要求した。DFAは、年間約5億3,300万ドルを、経済成長や農業開発、(基礎教育を除く)人材育成、民主主義の構築・支持、家族計画、環境保護の支援に投じている。

 DFAの他にも子供生存・疾病対策プログラム基金(Child Survival and Disease Programs Fund)や経済支援基金から多額の資金が寄せられ、アフリカに対する支援は総額9億3,500万ドルに達し、「アフリカへの資金を歴史的レベルに戻す」というクリントン大統領の公約が実現した。

  私は、大使としてのタンザニアへの駐在期間を含め、8年間をアフリカで過ごした。アフリカは素晴らしく、また複雑な大陸だが、われわれの支援を必要としている。人々を襲っているHIV/エイズの蔓延から、社会構造を寸断している戦争や紛争まで、アフリカが抱える問題は衆知の事実である。しかし、それは全体の半分を見ているに過ぎない。つまり一方では吉報もある。わずか10年前には独裁国家だったナイジェリアとモザンビークの2カ国は、今では民主主義国家に生まれ変わっている。南アフリカではアパルトヘイトが撤廃され、モザンビークでは16年続いた内戦が終結した。また、セネガルで選挙結果を尊重し、民主的に選出された大統領が出現している。

 アフリカ人全体の生活を改善するための経済成長の推進が、アフリカに関するUSAIDの優先事項の1つである。サハラ以南では、過去5年で4.9%という成長率を達成した。この数値は過去20年で最高だが、貿易の増加、預金・投資率の上昇、および司法改革や規制改革の制度化に向け、なすべきことはまだ山積している。

 USAID は、2001年度、ロシア・新興ユーラシア民主主義諸国の自由と開放市場(FREEDOM=Freedom for Russia and Emerging Eurasian Democracies and Open Markets)支援基金に総額8億3,000万ドル、東欧民主主義基金(SEED)に6億1,000万ドルを要求している。この2つの基金は、経済成長、市場開放の制度構築、民主主義の強化、社会セクター(保健や人口プログラムなど)、戦争犯罪裁判や国連コソボ派遣団(UNMIK)といった特別なイニシアティブの立て直しを支援するものである。

選択すべき一本の道

 対外援助の成否は、アメリカが協力している各国の個人や政府に依るところが大きい。ただし、成否の鍵はそれだけではない。USAIDに適切な管理、人材育成、強力な調達プログラムが揃っていることが必要であることもぜひ申し添えたい。USAIDの管理、能率、効果の向上を現在USAIDの長官としての優先事項として挙げたい。以下、いくつかの重要な分野においてUSAIDがこれまでに行ったこと、そしてこれから予定されている行動計画について述べたい。

@USAIDのシステム

  1999年9月、USAIDは、財務システムの改善に向けて、市販のレディーメイドの(COTS)会計パッケージを購入した。現在、システムの実装が進行中で、10月にはワシントンD.C.で会計作業を開始し、2001年度から2002年度にかけて海外拠点でインストールされる予定になっている。また、既存の調達システムを新しい会計システムと噛み合わせる作業も行われている。現在、ビジネスプロセスの分析と見直しが進行中で、これから6カ月以内に、「利用できる別の調達システムとしては何が最高か」の判断に入る予定である。

 2001年度から、USAIDの人事・給与処理は、農務省に付属するアメリカ財務センター(National Finance Center)が運用するシステムが行う。現在、同センターは、連邦政府の他の機関の人事・給与処理も行っている。われわれは、このように機能が省庁の枠を越えることによって、これから5年で約600万ドルの節減が実現すると考えている。

 現在契約している業者が、急速に時代遅れになりつつあるシステムに対するサービスの提供を停止するため、USAIDとしては、今年、ワシントンや海外拠点のコンピュータ・ネットワークを動かす基本ソフト(OS)の交換を迫られており、ワシントンにあるシステムは今年度中に交換が予定されている。

A人事

  USAIDも連邦政府の他機関と同様、未来に向けた活性化と足固めの努力をしなければならない。USAIDは、職員の契約、情報技術(IT)、財務管理、技術的専門分野の技能を磨き、現地駐在員やパートナーにできる限りプロフェッショナルで近代的な技術援助を提供するよう努力する。

 USAIDの外地勤務(Foreign Service)の展望にもリフレッシュが必要であろう。そこで、フィールドで働く職員を毎年60〜70名新規採用し、ワシントンで1年から2年研修を行ってから現地に派遣する戦略的採用計画を立てた。新規採用者の多くは契約職員としてこれまでもUSAIDで仕事をしており、かけがえのない即戦力になるだろう。

 また、必要な技術・管理能力を修得する新しい研修プログラムを実施し、職員の能力を伸ばしている。この1年で、契約担当官およびプログラム・マネージャーに対する調達研修を増やし、上級・監督管理コースも開始した。

B調達

 USAIDは、契約、無償供与、協同契約を通じて事業の大半を行っている。近年、USAIDでは、資金や人員が削減されているにもかかわらず、調達取引量は増加を続けている。そこで、効果的な援助の提供を継続し、契約者や無償供与先と円滑に作業を進めるため、次のような改善が実施されている。

[新手法の採用]

 USAIDには、中央で競争して決め、後にその国特有の事情に合わせて業務や納入の注文を出す、数々の的を射た大型契約の仕組みが整っている。現在USAIDでは、この手法を大型無償供与や協同契約プログラムに応用する実験をしている。つまり、新しい契約を決めるプログラム・マネージャーの裁量をある程度制限し、中央で決める方が望ましいとするものである。また、このような仕組みにすると、契約や業務の受注競争で、小規模や少数(民族)経営の企業が不利になることも承知している。したがって、このような手法を採用する場合には、そうした企業に然るべきチャンスを与えてバランスを取らなければならない。

[システムの改善]

 前述のように、USAIDは、事業運営の改善に次々と情報技術(IT)を採用している。来年は、調達システムと新しい会計システムとの統合が重要になるが、それにも増して重要なのが、2001年度には、前述のように調達・援助用の新しい自動システムの開発に着手する予算が付いているということである。

[人員配備]

 USAIDの人員配備は、大体現在の人数を維持する。著者としては、その人数の範囲内で調達の専門職を増員し、プログラムの迅速な処理を実現することを優先事項にしている。現在は、多数の契約職員を採用し、調達担当者の離職時に交替が効率よくできるような方法を実施しつつある。

C海外事業

 現地駐在のアメリカ人を維持する高いコストを考えると、海外スタッフを効果的に配置することも重要である。USAIDは、最近の海外駐在諮問委員会(OPAP = Overseas Presence Advisory Panel)のフォローアップをする国務省傘下の特別委員会に参加しており、それが能率に結びつくことを願っている。また、海外で効率的に事業を展開するのに不可欠なのが国際協同行政支援サービス(International Cooperative Administrative Support Service)である。海外のあらゆる機関はここを通じ、その土地で最も有能なプロバイダーから行政サービスを受けることができる。

 新世紀はまだ揺籃期にある。アメリカが誇るロバート・フロストも言っている。「われわれの前には二本の道がある」。一本はますます世界全体と協調していく道であり、もう一本は孤立が深まる道である。どちらの道を選ぶかは、ここにいるわれわれすべてにかかっている。しかし、われわれがどちらを選ぶかによって大きな違いが出ることは確実である。

* * *

J・ブレイディー・アンダーソン  (J. Brady Anderson)

 ローズ大学、アーカンソー大学ロースクール、およびオールネーションズ・カレッジ(英国)卒業。弁護士。アーカンソーにて州知事時代のクリントン氏のアシスタントを務める。その後、社会言語学調査のため5年間にわたり東アフリカに滞在。1994年より1997年まで駐タンザニア大使を務め、1999年8月より現職。海外個人投資会社委員会委員長を兼任。

米国国際開発庁(USAID)とは

 アメリカの対外経済、人道援助プログラムを担当する連邦政府機関。経済成長と農業開発、人口問題、環境、民主主義、教育、人道援助など6つの柱の下、主に災害や貧困から立ち直りをはかり、民主化を推し進めている国々の援助を行っている。対象地域としては、サハラ以南、アジアおよび中近東、ラテンアメリカおよびカリブ、ヨーロッパおよびユーラシアが挙げられる。

  ワシントンD.C.に本部を置き、政府の各組織をはじめ、ボランティア団体、ビジネス界、大学等さまざまな機関と協力して活動を行っている。今まで3,500以上のアメリカの会社や300余のアメリカに拠点を置くボランティア団体とともに活動を進めており、予算の40%はこうしたNGOを通して使われている。

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