在日米国商工会議所昼食会における ウィリアム・デイリー商務長官講演 (草稿) 1998年2月16日 於 東京アメリカンクラブ  皆さんこんにちは。東京を訪れることができ、特にオリンピック開催中に日本を訪れること ができ、大変嬉しく思っております。 皆さんの中に、オリンピック・スポンサー企業の方々が大勢いらっしゃることを、承知して おります。シカゴの天候を持ってこようと思ったのですが、もう長野には風も雪も十分あるよ うです。日本の国民の皆さんは、米国選手団を暖かく歓迎してくださっています。オリンピッ ク参加選手皆さんのご健闘と、天候の回復をお祈りします。 さて、私は、商務長官として今回初めて日本を訪れました。この後、今週中に韓国とシンガ ポールを訪問しますが、最初の訪問国が日本というのは極めて象徴的です。 というのも、日本はアジア最大の経済国・貿易国だからです。そして現在、日本はアジアの 経済回復の鍵を握っています。今後数ヶ月間の日本の行動が、将来の世界の繁栄にとって極め て大きな重要性を持っています。 先月、クリントン大統領は、米国民への一般教書演説で、アジアの金融問題を取り上げまし た。 大統領は、アジアの混乱が世界経済全体に影響を及ぼすため、そうした悪影響を可能な限り 小さく抑えることが米国にとって正しい道である、そしてそれが世界の安全のためにも正しい 道である、と述べています。 日本は既に多くのことを成してきました。他のアジア諸国のために、国際収支・開発援助、 借款、保証などで300億ドルをコミットし、世界のどの国よりも援助をしています。 したがって、私が日本を訪問した目的は、この地域の米国企業の皆さんが直面する問題につ いて直接お話を聞き、学び、事実を把握するためです。私は民間出身ですので、皆さんが雇用 を創出するには、政府の支援がいかに大切かを理解しております。 また、私が日本に来たのは、米国と日本の両国が直面している責務について日本の指導者と 話し合うためでもあります。世界の二大経済大国として、日米両国はそれぞれ大きな責任を負 っており、共にその事実を認めなければなりません。 いまこそ指導力を発揮する時です。こうした時には、友好国や同盟国は率直に話さなければ なりません。それ以外のことを許すには利害が大きすぎます。私は、そうした精神で、東京に やって来ました。 今、この地域の現状を見ると、明らかなことが2つあります。まず第一点は、アジアは健全 で成長する日本なくしては回復できないということ。第二点は、日本の経済成長が続くかどう かは、健全なアジアにかかっている、ということです。 数字がそれを如実に語っています。金額ベースで言いますと、アジアの製品・サービスの 70パーセントが日本で生産されています。繰り返しますが、アジアの製品・サービスの70パ ーセントが日本で生産されているのです。 今日、アジアの輸出の55パーセント近くは、アジア地域内での貿易です。日本の輸出の40 パーセント以上がアジア向けです。つまり、日本は米国への輸出の2倍近くをアジアへ輸出し ているということです。 メッセージは明らかです。日本はアジア諸国の経済が健全でなければ輸出をすることができ ませんし、他のアジア諸国は対日輸出を増やすことができなければ経済を回復させることがで きません。各国の生産者は、相互の消費者でもあります。こうした統合されたシステムの中心 にいるのが日本です。日本の命運がアジアの命運です。 現在、日本は、悪い風邪にかかっています。1990年代初頭以来、経済成長は事実上停滞し ています。ここ7年で、米国の工業生産は25パーセント伸びましたが、日本はわずか4パー セントしか伸びていません。 また、現在の経済政策では、成長見通しは厳しいものがあります。1998年の実質国内総生 産(GDP)の成長率は、わずか0.2パーセントというアジアの民間専門家の見通しを聞くと、 皆さんと同じ失望感を覚えます。 ですから、私が日本の指導者に伝えたいメッセージはこうです。アジアの安定と成長を回復 させるのに日本が成し得る最も重要な貢献は、まず第一に内需を強くし、第二に経済の規制を 撤廃し、そして第三に輸入品に対して市場を開放するために、必要な措置をとることです。 まず、内需の強化についてお話しましょう。日本の経済成長が速くなれば、日本の国民の害 になるどころか、助けになります。日本の大きな懸念に、たとえば、人口の高齢化に伴う予算 面の現実にどう対処するかという問題があります。 米国も同じ懸念を抱いています。クリントン大統領は、社会保障を救うことが予算案で最優 先順位であると言っています。日本では、人口の高齢化に対処するのに必要な財源を生み出す には、経済成長を速めることしかないのです。 政府財政赤字の削減は、日本にとって重要な目標です。日本は長年にわたって米国に国内経 済を立て直すよう求めたものでした。日本政府は全く正しかったのです。米国は膨大な財政赤 字を削減する必要がありました。 2週間前のことです。クリントン大統領は、それまで考えられなかったことを実現させまし た。私もその瞬間に立ち会いましたが、ホワイトハウスのイーストルームで大統領は、米国の 財政赤字が1999年にゼロになると、大きな字で「ゼロ」を書いたのです。大統領が30年ぶり に均衡予算案を提出したのです。 私たちは赤字を削減しました。それは、今回は経済のルールに従ったからです。そして、市 場も、私たちが真剣である、と判断したからです。しかも、その削減は成長によって行ったの です。この5年間で、米国の企業は1500万の雇用を創出しました。 日本は成長を促進する上で幸先の良いスタートとなる有意義な措置を既にとっていることを 指摘しておきたいと思います。日本は、30兆円の措置を含めて、金融制度の安定に取り組み 始めました。日本がこの面で成功することは極めて重要です。 また、補正予算の財政刺激策は、国内経済の緩やかな成長に対処するための措置としては、 歓迎すべき第一歩です。しかし、こうした歓迎すべき措置をもってしても、日本の全般的な財 政政策は経済を前進させるには依然として限定的なものであり、まだ不十分です。 日本が活力のある内需主導型の成長をするには、もっと多くのことがなされる必要があるこ とは明らかです。日本は輸出主導の成長に頼ることはできません。成長は、国内経済内部から 出てこなくてはなりません。日本政府当局にはさらに必要な措置を時宜を得た形でとる用意が あると、私たちは期待しています。 日本にとって、二つ目に重要なことは、規制緩和を推進させることです。過剰な規制が経済 成長を抑えてきました。競争を妨げてきました。多くの分野で価格を引き上げてきました。そ して、輸入障壁と貿易摩擦の主要な原因だったのです。 皆さんも私と同様、ご存知のように、たとえば、卸・小売分野の規制は、両国間の貿易摩擦 の大きな原因です。この規制は、日本の消費者に大きなコストを負担させてもいます。卸・小 売の分野は、日本の労働者全体の約5分の1を雇用していますが、この分野の効率は、米国の 半分にも満たないのです。つまり、この分野の規制のために、日本の消費者は、製品の選択幅 は限られている一方で、価格は2倍支払わされているということなのです。 通産省は最近の研究で、規制緩和が行われなければ日本の経済成長は低下し続け、来世紀初 頭には年率1パーセント未満の趨勢に近づくと予測しています。 日本政府は何をしなければならないかを知っていますし、橋本総理大臣は野心的な改革を提 案しています。私たちは、こうした改革が優先され、緊急に実施されることを期待しています。 私は希望を抱いています。昨年デンバーで開催されたG7サミットで、橋本総理大臣は「強化 された規制緩和イニシアチブ」を発表し、今年5月のバーミンガム・サミット開催までに成果 を出すと約束しました。日本がサミットに何を持ってくるのだろうかと、全世界が注目してい くでしょう。 第三に、私たちは、日本が貿易障壁を直接削減し、アジアの貿易自由化の環境を育むことに よって、断固としたそして死活的に必要とされている地域のリーダーシップを発揮することを 期待しています。 金融危機をきっかけに、アジア諸国は緊縮政策をとり、貿易自由化を後退させる誘惑に駆ら れています。 日本はこの誘惑に勝たねばなりません。日本は、全く逆のことをすべきです。他の諸国の先 頭に立って、貿易障壁が地域の諸問題の一因であったという理解を促進すべきです。そして、 日本は地域にとっての模範となり、経済成長にはただ単に開放された状態を維持するだけでな く、貿易障壁を更に削減する必要もあることを示すべきです。 この事を行う一番良い方法のひとつは、すでにAPECで討議された市場開放の動きを加速化 させることでしょう。昨年11月、バンクーバーにおいてAPEC首脳は、障壁を撤廃しうる分野 を9つ確認しました。 日本が、水産物や林産物といった難しい分野も含めて、9つの分野すべての自由化にコミッ トするなら、他のアジア諸国に強力なシグナルを送ることになりましょう。ですから私は、日 本の指導者に米国と共に、APECの先頭に立ってこうした貿易障壁の撤廃を進めるよう、強く 要請しております。 私は公務に就いてからまだ1年しか経っていませんが、長年にわたって日本ほど米国が市場 参入問題で注目してきた国はないことを理解しています。米国は、どの国よりも多くの貿易協 定を日本と交渉・締結してきました。 つい先月のことですが、航空交渉が日米両国にとって利益になる形で合意に達しました。混 雑した飛行機で太平洋を横断されたことがある人にとっては、これからはもっと多くの都市へ、 もっと便利なサービスが実現するということです。また、貿易、投資、観光の増加により、各 地の経済が潤います。 市場開放に向けて前進するもう1つの方法は、こうした貿易協定がすべて遵守されることを 確実にすることです。私たちは、完全な遵守を期して、貿易協定を綿密に監視することにコミ ットしています。なぜなら、協定に署名した時点で仕事が終わったわけではなく、始まったば かりである、ということを私たちは、そして日本も、理解しているからです。 アジアの状況の故に、私たちの貿易赤字が増加せざるを得ない中で、起こり得る最悪の事態 のひとつは、協定の精神や条文の実施を引き延ばしたり、抜け穴を探したりすることです。経 済動向から貿易への圧力が生ずることは理解しています。しかし、市場の開放性を妨げようと する公然たる動きや隠れた動きを原因とする貿易面の損失は、どうしても理解できないもので す。こうした事態が起きないように協調することは、私たちにとって肝要なことです。 この面で、世界各地の米国商工会議所の中で、最も活発な組織のひとつである在日米国商工 会議所の皆さんに、お力添えをお願いしたいと思います。これから起きるかもしれない問題に ついて、早期警告を出していただきたい。つい先週、私は、新たに貿易苦情処理ホットライン を備えた、商務省の新しいトレード・コンプライアンス・センター(Trade Compliance Center)についての発表を行いました。是非ご利用頂いて、貿易問題が危機的状況に陥る前に、 その解決にご助力を頂きたいと思います。 最後に、世界の眼は日本に注がれていると申し上げたい。今こそリーダーシップが求められ ています。今こそ、変革の時です。アジアの復活に対する私たちの関心は同じです。私たちは、 目標を達成するために、個別にまた共同して、努力しなければなりません。 ご静聴ありがとうございました。 98-16RJ February 17, 1998