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 2004年人身売買報告書全文の翻訳を掲載する予定です。翻訳が完了した部分から随時追加掲載いたします。

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

2004年人身売買報告書


国務省人身売買監視対策室 

2004年6月14日 

I. 序文(改定) 

[被害者の概観:この報告書で取り上げた、被害者の証言による人身売買の例は代表的なものだけであり、すべての形態の人身売買が含まれているわけではない。このような事例は、不幸にも世界中のほぼすべての場所で行われる可能性がある。これらの例は、人身売買の多様な形態と、それらが行われている地域の広がりの大きさを示すために取り上げた。人身売買の影響を逃れる国は存在しない。この報告書で使われている被害者の名前はすべて仮名である。この報告書の表紙の写真や、多くの写真説明なしの写真は、実際の人身売買被害者のものではないが、これらは、人身売買の無数の搾取形態を定義する助けとし、被害者が発見される文化の多様性を示すために掲載した。]

序文

 コンゴ民主共和国の反乱軍が12歳のナタリアを軍に参加させた。「ある日、反乱軍が私の住む村を襲いました。彼らは、隠れている私の目の前で、親戚の人たちを殺し、母や姉妹をレイプしました。私は反乱軍に参加すれば安全だと思いました。反乱軍で銃の使い方を習い、見張りの役を与えられました。頻繁に他の兵士に殴られたり、レイプされました。ある日、隊長が私を妻にしたがったので、逃げ出そうとしました。彼らは私を捕まえ、むちで打ち、長い間、毎晩私をレイプしました。子供が生まれたのは、まだ14歳の時です。父親が誰かも分かりません。また逃げ出しました。でも、行く場所も、赤ちゃんの食べ物もありません。戻るのが恐ろしいのです」


2004年人身売買報告書の目的

 国務省には、過酷な人身売買の根絶に向けた外国政府の努力に関する年次報告書を議会に提出する法的義務がある。この2004年6月に提出した報告書は、第4回の人身売買年次報告書である。人身売買根絶に向けた各国の行動が主題ではあるものの、この報告書は、21世紀の奴隷制度である人身売買の被害者の悲痛な話も述べている。この報告書では、米国の法律および世界中で使われている「人身売買(trafficking in persons)」という言葉を用いている。この言葉は、あらゆる形態の奴隷売買と現代の奴隷制度を包含している。

 人身売買の悲劇を完全に理解し、人身売買に対する戦いに打ち勝つためには、被害者のことを十分に知る必要がある。被害者が誰なのか、なぜ被害を受けやすいのか、いかにしてわなにかけられたのか、被害者に自由を与え、その傷を癒やすために必要なことは何なのか、を知る必要がある。他国政府の努力を評価する上で、人身売買報告書が重視しているのは、訴追(prosecution)・保護(protection)・防止(prevention)の3Pである。しかし、人身売買の被害者を中心にしたアプローチには、救助(rescue)・転居(removal)・復帰(reintegration)の3Rに対処することが同様に求められる。われわれは、捕らわれた人々の叫びに耳を傾ける必要がある。すべての国が団結してこの悪に立ち向かうまで、われわれの使命は完了しない。

 140年以上前に、米国は奴隷制度を廃止させ、同制度を支持する者たちが国を分裂させることを防ぐために激しい戦争を戦った。そして米国は国の慣行を廃止することに成功したが、奴隷制度は多くの男女や子供の生命と自由を脅かす拡大する世界的脅威として戻ってきている。

 人身売買のない国はない。毎年推定60−80万人にのぼる男女と子供が国境を越えて売買されており(国際・非政府機関の中にはこれよりかなり多くの数を推定しているところもある)、ビジネスは成長しつつある。この数字は、これよりはるかに多い各国国内で売買されている不確定の人数にさらに加えるものである。被害者は、売春を強制されたり、採石場、労働搾取工場、農場で働かされ、召使いや少年兵その他の多様な強制労働を強いられている。米国政府は、国際的に売買されている被害者の半数以上が、性的搾取のためであると推定している。

 非常に多くの被害者が、自国内で売買されている。犯罪要因、経済的困窮、政府の腐敗、社会的混乱、政治の不安定、自然災害、軍事衝突が起因して、21世紀の奴隷売買が、安価で無防備な労働力への世界的需要を満たしている。さらに、人身売買による利益が、国際犯罪組織拡大の資金源になり、政府の腐敗を助長し、法の支配を弱体化している。国連の推定によると、組織犯罪にとり、人身売買による利益は、麻薬と武器の売買に次ぐ3番目の収入源になっている。

 チェコ共和国で結婚生活がうまくいっていない2歳の娘を持つカティアは、オランダでウエートレスをすれば良い収入が得られるという友人の勧めに従った。チェコの人身売買業者の車でカティアと他の4人の若い女性はアムステルダムに向かい、そこで合流したオランダの人身売買業者に売春宿に連れて行かれた。こんなことはしないとカティアが言うと、やらなければ、娘は生きてチェコには戻らないと言われた。長年にわたる脅迫と強制売春の後に、親切なタクシー運転手に救助された。カティアは現在病院で仕事をしながら、社会福祉の学位を得るために勉強している。

 現代の奴隷売買は、世界のすべての国々に対する多面的脅威となっている。人権侵害によりもたらされる個人の苦悩に加えて、人身売買の組織犯罪へのつながりと、麻薬や武器の取引などによる深刻な安全保障上の脅威が明らかになってきている。被害者が、劣悪な生活環境や強制性行為のいずれかが原因で、病気に感染し、さらに別の場所に売り渡されることから、公衆衛生への深刻な懸念も同様に明らかになっている。他の差し迫った問題を優先させて、人身売買問題を軽視するという選択をする国は、危険を覚悟してそうしなければならない。即時の行動がどうしても必要とされている。

 2000年に議会が可決し、大統領が制定した2000年人身売買被害者保護法(22 U.S.C. 7101 et seq.)=TVPAは、2003年人身売買被害者保護再承認法(公法108-193)により最近改定された。TVPAの目的は、人身売買業者を処罰し、被害者を保護し、世界的人身売買対策キャンペーンに向けて米国政府諸機関を動員することにより、人身売買と戦うことにある。改訂されたTVPAにより、国務省・司法省・労働省・国土安全保障省・保健福祉省・米国国際開発庁には重要な権限が与えられた。

 この報告書は、TVPAが義務付けたものであり、その目的は、人身売買に対する世界の認識を高め、他の国々の政府に効果的な行動を起こすことを求めていくことにある。この報告書は、人身売買と戦うための新しく重要な方法において、増えつつある国際社会のコミュニティーが情報を共有し、パートナーとなる努力に一層の重点を置いている。この報告書では、人身売買排除に向けた最低基準を満たすための重要な行動をとることを怠った国に対しては、否定的な評価が与えられる。このような評価を受けた国に対して、米国からの人道的支援以外の支援や非貿易関連の支援差し止めが誘発されることもあり得る。

被害者の自由を買い戻す

 現代の奴隷制度のなかでおそらく最も醜い側面の1つは、人間の生命の商品化、つまり1人の女性、1人の男性、そして1人の子供の命に金銭的価値をつけることである。インドの売春宿でも、またスーダンの奴隷収容所でも、被害者の自由に価格が付けられているのである。

 被害者救済に取り組む組織や個人は、時には被害者の自由を金銭で買うことを選択してきた。この身代金を支払うことで、即座に結果は出る。被害者は奴隷の束縛から解放される。しかし、この手段はさらに複雑な結果をもたらす。

 組織や個人が所有する売春宿から被害者が解放されても、人身売買業者は、この取引で得た収入で新たな被害者を獲得し、同様の仕事をさせることができるのである。被害者の実数が減少したか否かを判断することは困難である。いずれにせよ、人身売買業者・搾取者が、代償を払うことも処罰を受けることもなく、奴隷が続く可能性がある。

 被害者の自由を確保するためのより永続的で効果的な方法は、法を適用すること、つまり刑事司法制度の下で被害者を売買した人身売買業者・搾取者の罪を裁くことである。金銭で賠償することなく被害者を救助する強制捜査と奴隷行為をさせた者の逮捕という司法手段は、このような憎むべき取引を行う商人に高い代償を払わせる。刑法を適用することで、社会が処罰の手段を持つことになる。米国の法律が、政府が人身売買の形態を刑事罰の対象にすることを優先事項とする理由はここにある。


 人身売買の広がりと実態に関して、われわれが知らなければならないことは多い。この報告書でわれわれは、情報の乏しい分野を指摘し、さらなる調査を必要とする諸問題を提起することに努めた。このような制約の下に、2004年人身売買報告書は、現代の奴隷制度の実態と広がり、および人身売買根絶に向けた世界的キャンペーンの中での広範囲にわたる行動に関する最新かつ包括的調査となっている。

 TVPA、人身売買年次報告書、強力なリーダーシップ、政府の努力の強化、国際機関ならびにNGOの関心が高まったことなどの結果として、われわれは、協力の新たな局面を迎えている。各国は相互の協力を強化して、人身売買ルートの閉鎖、人身売買業者の訴追と有罪宣告、被害者の保護と社会復帰に取り組んでいる。この報告書が、より大きな前進に拍車をかけることを期待する。

政治の腐敗が、人身売買根絶への進展の障害になる

 政治の腐敗が、多くの国々で、人身売買に対する戦いの大きな障害になっている。人身売買に関連する政治腐敗の規模は、局地的なものから国全体のものまである。そのような公的な腐敗の問題を抱える国々は、問題解決のための効果的な手段を見いだす必要がある。中央ヨーロッパと東ヨーロッパの諸国が、人身売買対策強化のために行なった腐敗対策には、効果的なものがいくつかある。それには、法執行官に対する安定性・知性・性格・倫理・忠誠度のテストを含む心理テストの実行、倫理に関する講習の義務化、標準身分証明書の発行、誠実度テストの無作為の実施、最良事例マニュアルの配布と使用、職員個人の所持品と現金の無作為の検査、匿名による腐敗対策ホットラインの公表、交通量の多い国境検問所に重点を置いた人員配置転換、昇給、業績に応じた報奨金、各自の職務の重要性の理解向上のための研修の実施、職務宣誓の義務化、出入国記録などに対する定期的行政検査の制度化が挙げられる。

 

 20代後半の、デンは、オーストラリアでは売春で大金が手に入ると地元のタイで誘われて、自発的にオーストラリアに向かった。しかし、オーストラリアに到着すると、迎えに来た人身売買業者は、彼女のパスポートを取り上げて、一軒の家に閉じ込めた。彼女は、3万ドルの借金を返済するために、900人の男に奉仕するように言われた。ろくに食べる物も与えられず、毎日、病気の時にも、強制的に売春宿に連れて行かれた。逃げようとしたら、人身売買グループの犯罪組織が捕まえると言われた。オーストラリア移民局の職員が、デンを奴隷として働かせていた売春宿を強制捜査したことにより、デンに対する搾取は終わった。
人身売買とは

 人身売買、特に女性と子どもの人身売買の防止・禁止・処罰に関する議定書(3つの「パレルモ議定書」の1つ)は、人身売買を次のように定義している。

 搾取を目的として、脅迫や、暴力その他の強要、誘拐、不正行為、偽装、権力乱用、他人の弱い立場を悪用、他人を支配できる人物への金銭や便宜の授受などの手段を用いて、人を募集し、移送・移動したり、かくまったり、受け入れることとしている。搾取には少なくとも、売春における搾取やその他の形態の性的搾取、強制労働や強制奉仕、奴隷制度や奴隷制度・隷属と同様の行為、あるいは臓器の摘出が含まれる。

 多くの国が、この定義を誤解して、国内の人身売買を見過ごしたり、あらゆる不正な移住を人身売買と見なしている。TVPAは、「過酷な形態の人身売買」を次のように定義している。

A. 営利目的の性行為が暴力や、詐欺行為、強要により誘発された場合、または営利目的の性行為をさせられる人物が18歳未満の場合における性的人身売買。

B. 不本意な強制労働や、日雇い労働者、債務奴隷、奴隷として服従させることを目的に、暴力や詐欺行為、強要によって人間を労務や奉仕のために募集、かくまい、移送、供与、獲得する行為。

 これらの定義には、人身売買被害者が移動されることを条件にしていない。また、前述の目的で人間を募集し、かくまい、供与し、獲得する行為に適用される。

人身売買が人と社会にもたらす被害

インドネシアの農村出身の10代のティナは、4カ月の家事訓練と4カ月のインドネシア海外労働センターの寮費として数百ドルの借金を背負いこんだ。そこから、ティナは、他の多くのインドネシアの少女と同様に、マレーシアに移された。彼女は、そこでマレーシアの夫婦のお手伝いさんとして働くと思っていた。零細企業で1日15時間も強制的に働かされたティナの寝る場所は、床だった。彼女は、2年の契約が完了するまで、給料は支払われないと言われた。度重なる肉体的虐待を受けた後、彼女は、マレーシアのNGOの被害者避難所に保護を求めた。ティナは、雇用主を警察に告訴し、マレーシアで訴訟を続けるために彼女の移民ビザの延長が認められた。
 人身売買の被害者は、恐るべき犠牲を払わされている。多くの人身売買被害者は、生涯消えることのない病気や発育障害などの肉体的、精神的な痛手を負わされ、親族や共同体から締め出されている。人身売買被害者は、社会的、道徳的、精神的な成長の重要な機会を逃してしまうことが多い。多くの場合、人身売買被害者の搾取は、進行する。1つの仕事に売り渡された子供は、また次の仕事へと売り渡され、さらに搾取される。ネパールでは、カーペット工場やホテルやレストランでの仕事のために集められた少女は、その後、インドの性産業で強制的に働かされる。フィリピンおよびその他の多くの国々では、最初はホテルや観光の仕事のために移住したり、集められた子供たちは、しばしば売春宿に閉じ込められることになる。現代の奴隷売買の残酷な現実は、被害者が次から次へと売買されていくことが非常に多いということである。

 性的奴隷として強制的に働かされる被害者は、麻薬により服従させられ、極度の暴力に苦しんでいることが多い。性的搾取を目的に売られた被害者は、成熟前の性行為・強制的薬物乱用・HIV・エイズなどの性感染症にさらされることなどで肉体的かつ精神的なダメージを受けている。被害者の中には、生殖器に永久的な損傷を受ける者もいる。さらに、その土地の言語を話すことも理解もできない場所に売られた被害者は、孤立と支配下にあることで、精神的なダメージがいっそう大きくなる。皮肉なことに、言いようのない苦難と剥奪(はくだつ)に耐える人間の能力が、捕らえられた多くの被害者に、やがて自由になれることを期待しながら仕事を続けさせることになる。

人身売買は、人権の侵害である 本質的に、人身売買は、生きる権利、自由である権利そしてあらゆる形態の奴隷制度からの自由という基本的人権を侵害している。児童売買は、保護された環境の中で成長するという児童の基本的要件、および性的虐待と搾取から逃れる権利を無視している。

児童買春ツアーの実態

 児童の商業的性的搾取は、世界中の国々で、毎年大勢の児童に影響を与えている。この種の搾取の形態の1つが、増大しつつある児童買春ツアー現象である。児童との商業的性行為を目的に外国に旅行する人は、児童買春ツアー(CST=Child Sex Tourism)の罪を犯している。この犯罪行為は、不十分な法執行とインターネット、旅行の容易さ、そして貧困が原因で増大している。

 CSTの罪を犯す旅行者の多くが、自国から途上国へ出かけていく。例えば、日本のセックスツアー参加者はタイに出かけていき、アメリカ人はメキシコや中米に出かけていくことが多い。「相手を児童に特定しないセックスツアー参加者」は、児童との性行為を目的に旅行することはないが、いったんその国に入ると、子供を性的に利用している。「児童との性行為目的のセックスツアー参加者」または小児性愛者は、児童を性的に搾取する目的で旅をする。

 増大するCST現象に対応して、政府間組織や観光業界そして各国政府がこの問題に対処し始めた。1996年にストックホルム、そして2001年に横浜で開かれた「児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」は、この問題に関する世界的な関心を高めた。世界観光機関は、CST対策を目的にしたタスクフォースを設立し、1999年に世界観光倫理規約を採択した。過去5年の間に、児童買春ツアー犯罪の起訴件数が世界的に増加している。現在では、32カ国に、犯罪が発生した国でその犯罪が処罰の対象になるか否かにかかわらず、海外で罪を犯した自国の国民を起訴することを可能にする域外適用法が定められている。

 児童買春ツアーに対する闘いを進めるために、賞賛すべき措置を講じた国もある。例えば、フランスの文部省は、旅行業界代表者と協力して観光業専門校のカリキュラム用にCSTに関するガイドラインを作成した。また、国営のエールフランス航空は、機内販売による玩具の売り上げの1部を、CST啓発活動に当てている。ブラジルでは、セックスツアーに対する国内外での啓発活動を行なっている。イタリアでは、児童セックス犯罪に対する域外適用法の存在を周知させることを旅行業者に義務付けている。またスウェーデンの旅行業社のほぼ全社が、自社の職員にCSTに関する教育を行なう行動規範に署名している。カンボジアでは、児童買春ツアー対策専門の警察部隊を組織し、外国の小児性愛者を逮捕し、送還している。日本では、外国で児童と性行為をした日本人が起訴されている。

 米国は昨年、人身売買被害者保護再承認法と児童保護法(PROTECT Act)を制定し、児童買春ツアー対策の能力を強化した。これら2つの法律により、CST情報の作成と配布を通じて認識を高め、児童買春ツアーに関った者の刑期を最高30年まで延ばす。「捕獲作戦」(Operation Predator=児童搾取・児童ポルノ・児童買春ツアー対策のための2003年度イニシアティブ)の開始後8カ月の間に、米国法執行機関は児童買春ツアーの罪で25人の米国人を逮捕した。全般的に見れば、国際社会は、児童買春ツアーという恐ろしい問題に対して目覚めてきており、重要な初期段階の方策を講じ始めている。


ジョージ・W・ブッシュ大統領の声明

国連総会での演説の抜粋
国連本部、ニューヨーク州ニューヨーク市
2003年9月23日

 目には見えにくいが、さらなる人道的危機が広がっている。世界では毎年、人間が売買され、国境を越えて強制的に連れ去られている。性的売買の対象にされたこれらの被害者の中には多くの10代の少女と、5歳の児童さえも含まれている。人間の売買により、毎年数10億ドルの利益が生み出され、大半が組織犯罪の資金源になっている。

 最も罪のない弱者に対する虐待と搾取は特別な悪である。性的売買の被害者は、通常の生活というものをほとんど知らずに、残酷と孤独な恐怖に満ちた隠れた世界、つまり最悪の人生を体験する。このような被害者を作り出し、被害者の苦悩により利益を上げる者たちは、厳重に処罰されねばならない。このような業界を利用する者は自らを卑しめるものであり、他者の苦痛を深めるものである。そして、このような売買を容認する政府は、ある種の奴隷制度を容認することになる。

 この問題はわが国にも存在しており、われわれはこれを阻止するための行動を起こしている。今年私が署名した児童保護法(PROTECT Act)により、児童買春ツアーの目的で、米国に入国をした者は国籍を問わず、またその目的で海外に旅行した米国人は、罪に問われることになった。司法省は、セックスツアー業者と利用者の捜査を積極的に進めており、これにより最高30年の禁固刑に処することも可能である。人身売買被害者保護法により、米国は、人身売買を防止するために、他の政府に対して制裁手段を用いている。

 この業界の被害者は、国連加盟国の助けも必要としている。そして、これは各国の法による明確な基準と確実な処罰から始まる。現在、海外での児童に対する性的虐待を違法行為とする国もある。そのような行為は、すべての国において違法にすべきである。各国政府は、この業界がもたらす害悪およびその利用者に与えられる厳重な処罰に関して、旅行者に知らせるべきである。米国政府は、搾取から女性と児童を救い出し、避難所を用意し、治療を施し、新たな生活への希望を与えている機関の活動を支援するために5千万ドルを用意している。私は、他の政府も役割を果たすことを強く求める。

 われわれは、この古くからの悪との戦いに新たな力を示さなければならない。大西洋間の奴隷貿易が廃止されてからほぼ2世紀、そして奴隷制度が最後の拠点で正式に終わってから1世紀以上が経過したわれわれの時代に、いかなる目的であれ人間の売買が広がるのを許してはならない。


この人身売買被害者の話は、2004年6月20日に改訂された。

 ノイは、タイの貧しい農村から出てきた。15歳の時、里子に出された先の家族によるレイプと性的虐待から逃れようとしたノイは、日本での高給ウエートレスの仕事を宣伝していたバンコクの国外職業紹介業者を見つけた。空路日本に入ったノイは後に、偽名を用いた観光ビザで日本に入国したことを知った。日本に到着後ノイが連れて行かれたカラオケバーのオーナーは、彼女をレイプし、血液検査を受けさせた後に、ノイを買い受けた。「まるで検査される肉の塊のように感じました」とノイは語った。売春宿のマダムはノイに、日本への旅行費用1万ドルの借金を返済しなければならないと告げた。 ノイはマダムに警告された。逃げ出そうとした少女たちは、日本のマフィアに連れ戻され、ひどく殴られ、借金を倍にされた、と。借金を返済する唯一の方法は、できる限り早く、多くの客を取ることだった。客の中には、彼女たちを、血が出るまで、棒やベルトや鎖で打つ者もいた。被害者が泣いて戻ると、マダムに殴られ、彼女たちが客を怒らせたに違いない、と言われた。 売春婦たちは、決まってセックスの前に「あまり痛みを感じないようにするため」麻薬を打たれた。客の大半が、コンドームを使うことを拒んだ。被害者には、妊娠を防ぐためにピルが渡され、妊娠すると家で中絶させられた。 借金を返し終えて、独立して働き始めた被害者の多くが、警察に逮捕され、罰金を科され、拘留され、そして強制送還される前にレイプされた。ノイは、最後には、日本のNGOの助けでなんとか逃げ出すことができた。
人身売買は、社会の崩壊を促す 家族および共同体の支援ネットワークを失うことは、被害者を人身売買業者の要求と脅威に対し無防備にし、いくつかの面で社会構造の崩壊につながる。人身売買は、子供たちを両親や拡大家族から引き離し、養育と精神的成長の機会を阻害する。人身売買は、親から子へ、世代から世代への知識と文化的価値観を受け継ぐ道を閉ざし、社会の中核となる部分を弱める。人身売買による利益は、しばしば特定の共同体に人身売買の慣行を根付かせ、その共同体は被害者を生み出す重宝な供給源として繰り返し利用される。人身売買の被害者となる危険から逃れるために、子供や女性のような弱者は身を隠すようになり、それが就学や家族構造に悪い影響を与えるようになる。教育の喪失は、被害者の将来の経済的機会を減らし、将来、人身売買の犠牲になる可能性を高くする。元の共同体に戻ることのできた被害者は、しばしば汚名を着せられ、排斥されることになり、社会福祉を継続する必要がある。彼らは、薬物乱用や犯罪活動に走る可能性が大きい。

人身売買は、組織犯罪を増幅させる  人身売買による利益が、他の犯罪活動をも増幅させている。国連によると、人身売買は、世界の犯罪組織にとって3番目に大きい収入源になっている。米国の情報機関の推定によると年間95億ドルの収入になっている。人身売買はまた、最も利益をもたらす犯罪ビジネスの1つであり、不正資金洗浄・麻薬取引・文書偽造・人間の密輸に密接に結びついている。テロとの関係を指摘する文書もある。組織犯罪の多発地域では政府と法の支配は弱体化している。

人身売買は、国の人的資源を奪う  人身売買は、労働市場に悪影響をもたらし、回復不能な人的資源の損失を招いている。人身売買の影響には、賃金の低下、増加する高齢者の介護に当たる人々の減少、そして教育不足の人口の増加などが含まれる。これらの影響は、さらに将来の生産性と収益力の低下につながる。児童を幼年期に毎日10時間から18時間も強制的に働かせることは、子供たちから教育の機会を奪い、国家の発展を妨げる貧困と非識字者の循環を補強する。

芸術・芸能ビザの悪用

 多くの国で、芸術・芸能ビザが、人身売買被害者の移動と搾取を目的に取得されている。多くの女性に、芸能界やサービス業での合法的な仕事に従事することを前提に芸術・芸能のための短期ビザが発給されている。このビザの多くが、クラブの所有者による労働契約または採用通知、資産証明、健康診断書などを提示することにより発給される。出身国と目的国の法律の下に認可された職業斡旋機関が、女性に対する詐欺行為と募集に主要な役割を果たすことが多い。目的地に到着後、被害者は、パスポートと渡航書類を奪われ、性的搾取や強制労働に追い込まれる。不法滞在したり、ビザの規約違反をすると、被害者は、搾取業者に、入国管理局に引き渡すと脅迫される。

 スイス、スロベニア、キプロス、日本(これらの国に限られているわけではない)など、この種のビザを大量に発給している国の政府は、人身売買業者がこのメカニズムを頻繁に悪用していることを認識しなくてはならない。例えば、日本が、2003年に5万5000件の芸能ビザをフィリピンの女性に発給したことが報告されている。これらの女性の多くが人身売買の犠牲になっていると思われる。関係当局は、この種のビザの発給要件を精査し、繰り返し申請を行う人や保証人になる人たちに対する特別な審査手続きを実施すべきである。出国側では、女性を労働搾取や強制売春に誘い込むために人身売買業者が用いる策略に関して、芸能ビザ申請者に注意を呼びかけること目的とした啓蒙活動を行う必要がある。


売春が人身売買を増幅している

 多数の学術団体、NGO、科学研究機関が、売春と人身売買に直接関連があることを確認している。事実、売春と、売春あっせん・仲介業、売春宿の利用および経営などの売春関連行為が、人身売買の窓口としての役割を担い、その裏で、性的搾取目的の人身売買業者が動いている。スウェーデン政府が行った調査は、世界の売春産業が生みだした巨額の利益の多くが、人身売買業者の懐に直接入っていることを明らかにした。国際移住機関の推定によると、毎年50万人の女性が、ヨーロッパ各地の売春市場で売買(人身売買)されている。

 毎年国境を越えて売買される60万人から80万人にのぼる被害者の70%が女性で、50%が子供である。これらの女性や少女の大半が、営利目的の性的売買の犠牲になっている。


タニヤの例。

「友達がエジプトでの仕事を私に手配してくれました。友達とキシネウからモスクワに行き、そこで私はエジプト行きの飛行機に乗りました。エジプトの空港に到着すると、入国管理と税関手続きを通るために1人の男性とペアを組まされました。そこに待っていた人たちが、私を最高級のホテルに連れて行きました。そのホテルの受付に預けた私のパスポートは私の手元に2度と戻ってきませんでした。彼らは、私を車に乗せ、とても長い時間走りました。ベドウィンが住む地区(エジプトのシナイ半島)に着くと、ベドウィンは私たちを連れて砂漠を行きました。ある時、銃声が聞こえました。女の子が1人殺されたようです。ベドウィンは、態度が気に入らないと、殺したり、殴ったりするのです。私たちは長時間地雷の埋められている砂漠を歩き続けなければなりませんでした。彼らは、地雷が埋められている砂地を指し示しました。ほとんど食べ物を与えられなかったので、イスラエルに着いた時には10キロもやせていました。砂漠を出た後、イスラエルのある町に連れて行かれ、そこでベドウィンは私たちを売り渡す手配をしました。大勢の少女が私と旅をしました。イスラエルに連れて行かれる少女は全員同じ道をたどり、同じような扱いを受けるのです」

*************
 
 タジク人の少女ナスリーンは、モスクワで働いていた。ナスリーンのボスは、お金と家と車と良い暮らしを約束して、愛人になることを求めた。ナスリーンはこの申し出を受け入れた。ある日、家を訪れた客がナスリーンに、トルコで働く機会があると勧めた。ナスリーンのボスは、彼女にこの申し出を受け入れることを強要した。ナスリーンは、だまされ、イスラエルで売られ、売春を強制された。親切なジャーナリストの助けを借りて、ナスリーンはそこを逃げ出て、家に戻ることができた。
人身売買は、公衆衛生を蝕む 人身売買の被害者の多くが、肉体的、性的、精神的外傷をもたらすような過酷な状況に耐えている。性感染症、骨盤内炎症性疾患、HIV/エイズは、強制売春が原因の場合が多い。不安、不眠症、うつ病、心的外傷後ストレス障害は、人身売買被害者の間に共通する精神的徴候である。不衛生で混雑した生活環境が、栄養不良と相まって、疥癬や結核などの感染症を引き起こす原因になっている。子供は、成長と発育上の問題に苦しみ、貧困や精神的外傷による複雑な精神的・神経系統問題を抱えることになる。

 最もひどい虐待は子供に対して行われることが多い。子供は、管理しやすく、家事労働や武力衝突その他の危険な仕事に駆り出しやすい。子供は、進行性搾取つまり複数回にわたる売買の対象になりやすく、際限のない肉体的、性的、精神的虐待の対象にされる。このような虐待は、子供の精神的、肉体的リハビリテーションと社会復帰を困難なものにしている。

人身売買は、政府の権威を失墜させる 多くの政府が、自国の領土、特に腐敗がはびこる地域を完全に管理しようと懸命に努力している。武力衝突、自然災害、政治紛争、民族紛争が、多数の国内難民を生み出すことが多い。さらに、人身売買業者は、政府の権限を行使しようとする努力を阻害し、弱い立場の人々の安全に脅威を与える。多くの政府が、家や学校あるいは難民キャンプから誘拐されないように女性と子供を守ることができない。さらに、人身売買業者が払う賄賂が、法執行官、入国管理職員、司法当局職員の腐敗と戦う政府を妨げている。

人身売買は、巨額な経済的負担をもたらす 人身売買の根絶によって、極めて大きなな経済効果が得られる。国際労働機関(ILO)は最近、児童売買を含む最悪な形態の児童労働根絶の損失と利益に関する調査を完了した。ILOは、最悪な形態の児童労働根絶による経済効果は巨額(年間数百億ドル)なものになると結論付けている。その理由は、新世代の労働者が、教育の改善と公衆衛生の向上により得られる生産性の向上である。人身売買も、最悪の形態の児童労働と同様の人間的、社会的影響を及ぼしている。

 

少年兵の実態

 少年兵の問題は、人身売買の中でも特異かつ深刻なものである。多数の18歳未満の子供たちが、政府軍、武装民兵組織、反乱軍の兵士として、武力衝突に徴兵されている。誘拐され、兵士になることを強制された子供もいれば、脅迫や賄賂あるいは口約束の報酬で兵士になった子供もいる。

 多くの場合、食料や衣類そして住居を期待して武装組織へ参加するという子供の決断を、自由な選択と見なすことはできない。武力衝突に引き込まれた子供たちは、生き延びる手段を懸命に求めているのだ。精神的、肉体的に未熟な子供たちは、利用されやすく、また暴力行為を強制されやすい。暴力に対して鈍感にさせたり、より勇敢に戦わせるために、少年兵の多くにアルコールや麻薬の使用を強制している。

 強制的に徴兵された子供の多くは、不適切な訓練を受け、手荒に扱われ、すぐに戦闘に駆りだされる。少年や少女は、年長兵士に先んじて戦闘や地雷敷設区域に送り出される可能性がある。自爆作戦に利用されたり、自分の家族や地元社会に対する残虐行為を強制された子供もいる。またリベリアで最近起きた紛争に巻き込まれた1万5000人の子供の一部のように、荷物運び、料理、見張り、召使い、伝令、スパイの仕事をさせられる子供もいる。多くの少年兵は、そのほとんどが少女兵だが、性的虐待を受けており、性感染症感染と望まない妊娠の大きな危険にさらされている。

 少年兵の死傷率は、成人兵士の場合に較べて、はるかに高い。徴集された子供の顔や胸にナイフやガラスの破片で「印」をつける武装集団もあることが知られている。生き残った少年兵の多くが、自分たちが受けた暴力や蛮行による複数の外傷や精神的傷害に悩まされている。少年兵の人間としての成長は、取り返しのつかないほど傷つけられている。少年兵の家族や地元社会は、少年兵や、少年兵が属する集団が家族や地元社会に対して行った暴力行為を理由に、元少年兵だった人々の復帰を拒むことが多い。

 大人の戦争に子供を利用することは、世界的な現象である。この問題は、アフリカとアジアにおいて最も深刻ではあるものの、南北アメリカやユーラシアおよび中東の武装集団も子供を利用している。少年兵の利用を禁止または制限する法律や国際的責務を実行する政治的な意思が欠如している国が多数見られる。すべての国が、国際機関やNGOと協力して、少年兵の武装解除、復員、社会復帰に向けた行動を緊急に起こす必要がある。


(この他の文書は翻訳完了後に随時掲載)



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